第7話 ハンデとしてもらっておきますね?

「これにします!」


雨空が選んだゲームは、格ゲーだ。つまり、1対1でキャラクターを操作し、戦うゲームなわけだが。


「……本当にこれでいいのか?」


「はい。……で、これどんなゲームなんです?」


「そこからか……。キャラクターを動かしてプレイヤー同士で戦うゲームだな」


「あ、乱闘するやつみたいな感じですか」


「あれよりフィールドは狭いし上下に大きくは動かないけどな」


「なんとなくわかりました」


雨空は、これなら互角だ、とでも思っているのか、先ほどまでとは打って変わって自信に満ち溢れた表情だ。……そんなに簡単なゲームじゃないんだが。


キャラクターセレクトでは、俺は筋骨隆々のオッサンを、雨空はスレンダーな美女のキャラクターを選ぶ。


カウントダウンののち、力強いフォントでFIGHTの文字が浮かび上がる。


「とりあえず、操作がわかるまでは攻撃しないから」


「はい。これが、これで……。あ、これでジャンプ。これで攻撃……。んん? さっきと違う攻撃……?」


「方向入力したままだと攻撃の種類が変わるぞ」


「あ、そうなんですか。右押しながらだと……おお」


「あとは、この表の通りに打つと強い技が出る」


そう言って、コマンド入力のまとめられたものを見せる。


「ええと、こう? ……あれ?」


「タイミングよく入れないとダメだから難しいぞ」


「うーん、難しいですね……」


そう言いながら、雨空は表の通りに入力。あまりに成功しないので、しかめっ面になっていく雨空は、見ていて面白い。


その後、どんどん眉間にシワを寄せながら、雨空は何度も失敗したものの、なんとか一度発動に成功した。


雨空の操作する美女が、まったく動きのないオッサンをべしべしと叩いて殴って蹴っていく。HPバーが削り取られ、K.O.の文字が浮かび上がると同時、雨空はこちらを見る。


「やりました! 操作もなんとなくわかったので、いけると思います。……1ラウンド分は、ハンデとしてもらっておきますね?」


にやり、と笑う雨空。こいつ……。


「……狙ってやっただろ」


「いえいえ、そんなことないですよ?」


しらばっくれ、目を逸らす雨空。画面では、2ラウンド目がはじまろうとしていた。


このゲームは2本先取最大3ラウンドなので、俺はもう負けるわけにはいかない。


……さて。


卑怯な手を使った雨空を、こてんぱんにしてやろう。隣の真剣な顔で画面を見る雨空を、ちらりと視界の端に捉えてから、俺は先ほどの雨空のように、口角を上げ、唇を舌で湿らせた。

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