第8話 ハンデがあるなら手加減無しだ
「さすがの先輩も、1度も負けないなんてことは出来ないですよね!」
そう言って、雨空は操作するキャラクター──スレンダーな美女を、俺の操作する筋肉質のオッサンに接近させる。
「それ! とう! よっ!」
美女から繰り出されるのは、ハイキック、回し蹴り、そして足払い。
だが──
「甘い──!」
ガード、伏せ、ジャンプ。
そのことごとくを、俺はかわす。雨空はどうせコマンド入力を偶然でしか出来ないだろう、という前提で、ではあるが、俺は雨空の操作に対し、完全に対処が出来ている。
「!? ま、まだまだ……!」
回し蹴り、回し蹴り、足払い、そしてハイキック。
それをかわし、最後のハイキックに合わせて足払いを行う。
美女のキャラクターは、足元を崩され倒れる。
「なっ……!?」
そこから、俺は下段攻撃の追撃を行う。
「あああああ! ずるいです先輩!」
雨空が、そう叫びながらとにかく動かそうとコントローラーに無秩序に入力するものの、吹き飛んでいる最中には何もすることが出来ない。
「わたし初心者ですよ! こう、手加減とかですね!」
……こいつ、あまりに一方的だからってついに手加減まで言い出したか……。
必死に操作する雨空に、俺はひとこと。
「ハンデが勝手に取られたからな。手加減は無しだ」
そう言って、雨空のキャラクターを打ち上げ、HPを削りきった。
「ひどいです!」
K.O.の文字が出ると同時、雨空がこちらに振り向いて、そう言った。ぷくり、と膨らんだ頬は、興奮のせいか少し赤い。
「ひどくねえよ。そういうゲームだ」
それに、だ。
「俺、本当にこのゲームでいいのかって聞いたよな?」
純粋な格ゲーは、実力がすべて、というところがある。上手くない俺でも、初心者の雨空に完封勝利くらいは出来る程度の技術はあるのだ。
「……絶対勝ちます」
俺が確認したことを思い出したのか、雨空はもう一度画面に向き合う。
そして、ラウンド2が開始してすぐに、雨空が叫ぶ。
「ええええ!? それどうするんですか!?」
雨空の操作するキャラクターが、3連撃をくらい、画面の端へと吹き飛ぶ。
「いや、さっきコマンド表見せただろ? あれのひとつだ」
「打てませんよそんなの!」
「まあ、キャラ違うしな」
そう会話している間にも、筋肉質のオッサンが、美女を空へと打ち上げ続けている。
最高地点まで打ち上げられ、そのまま落下。そして、立ち上がった直後に雨空がコマンドを打ち込むが──
「え、ええと……こう?」
不発。美女のキャラクターは通常攻撃であるハイキックを、明後日の方向にしながら飛んでいる。
「無理ですー!」
そんな雨空の叫びと同時、俺の最後のアッパーが直撃した。……さすがに少しくらいは手を抜いた方がいいだろうか……。
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