第5話 逆走! レースゲーム!
雨空が選んだゲームは、レースゲームだ。キャラクターと乗るマシンを選び、コースを3周走る。シンプルなゲームだが、途中に得ることの出来るアイテムによって一発逆転を狙うことの出来る、バラエティ性に富んだものになっている。
そう、一発逆転が可能なのだが。
そもそも、逆転不可能な位置にいる車が一台。
「なんで真っ直ぐ進まないんですか!?」
「むしろなんで真っ直ぐ進めないんだ!?」
開始してすぐの直角カーブでなぜか反転し、どの車よりも速く、ゴール地点を示すアーチを潜った雨空が、悲鳴を上げる。雨空の画面には、逆走を示すマークがでかでかと映っている。
雨空の言う、真っ直ぐ進めない、というのは、少し違うかもしれない。真っ直ぐは進んでいる。進んでいるのだが、その向きが逆なのだ。
お互いの画面で、俺と雨空の操作するキャラクターがすれ違う。追い抜くことはあっても、すれ違うことはないはずのゲームなんだが……。
「ここで回転して、車体の向きを戻せば……!」
俺の後続の車にがすがすぶつかられながら、雨空は車を反転、そして正しい進行方向へと向け──
「……雨空、それ1回転してるぞ。まだ逆向きだ」
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
悲痛な叫び声を上げる雨空の車を、容赦なくCPUがぶっちぎって行く。
「……もう、いっそ逆走のままで行きます」
そう言って、雨空は逆走のままゲームを続行。現実なら即逮捕である。
左右の画面でこんなに順位が変わることってあるのか……と思いつつ、自分の順位を見る。
俺は1位、雨空はもちろん最下位だ。
2位、3位と抜きつ抜かれつのデッドヒートをしていると、パリン、とガラスの割れたような音が聞こえた。雨空がようやく最初のアイテムを手に入れたらしい。
「あ、1番いいやつです!」
ちらり、と雨空側の画面を見ると、オート運転で高速で進むアイテムを引いていた。普通の最下位なら、それで逆転も狙える範囲に入れるのだが、現状ではそうもいかない。
「……誰も見えないんですけど」
「周回遅れどころじゃないからな」
ただでさえ進んでいないのに、逆走までしていたのだ。それで追いつくはずないだろ……。
「ちなみに、あと1周で終わりだからな」
アイテムで加速しつつ、雨空を抜き去りながらそう言うと、
「この周で1位になります……!」
なんて言って、進みはじめる。
そして──
「なんで逆向くの!?」
また直角カーブで逆走を開始していた。
……多分、このゲーム向いてないな。
結局、もう一度雨空を見ることはなく、俺はギリギリ1位でゴールした。
「も、もう1回、もう1回しましょう。今度は直角カーブの無いところでお願いします」
リザルト画面を睨みつけながら、雨空が言うが早いか、画面を操作しはじめる。
「……まあ、いいけども」
直角カーブだけが原因では無いと思うんだが……。
そうは思いつつも、再チャレンジすると言うのなら止めはしない。
「ここです、ここにしましょう! 真っ直ぐっぽいですし!」
そう言って、選んだコースでキャラクター選択画面へ移った雨空に、ひとこと。
「そこ、1番難しいステージだぞ。横の枠が無いからな」
「ええっ!?」
雨空が、逆走どころかスタートからほとんど動けなかったことは言うまでもないだろう。なんで1番最初のコースにしないんだ……。
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