第4話 終結、清算、のち開戦

「よしっ」


ふう、と小さく息を吐き、雨空がベランダから戻ってくる。


開けられた窓からは、穏やか風と青い空、そして爽やかさを演出する布団が干されている。


激戦の結果、俺の布団は干されてしまった。干した後の布団で寝るのが気持ちいいのはわかるのだが、昼間に寝転がることが出来ないのはいただけない。


とはいえ、干されてしまったものは仕方がないので、俺は敷布団のなくなったベッドのすのこの上に座っている。


「普段ベッドから出ないと座っているのがしんどいな……」


「それ、絶対腰とか悪くするのでやめた方がいいと思いますよ」


「わかってはいるんだけどな……」


理解していることと行動に移せることは別なのだ。朝起きなければ、と思いながら、昼まで眠ってしまうことと同じである。


「なるべくベッドから出ないと、布団もぺったんこになっちゃいますよ」


「それはもう遅いな。2年も経ったらもうダメだ」


「……たしかにそうですね。買い替えましょうか」


「どうせすぐ同じことになるからなあ……」


「同じことにならないように、ベッドから出て生活してください」


「……無理だな。冬は絶対に無理だ」


この部屋は、ボロアパートらしく隙間風が多く、エアコンがない。すぐに寒くなるので、布団の中にいるしかないのだ。


「うーん……引越したらどうですか?」


「そんな金ねえよ。なにより家賃の予算がここで限界だ」


親からの仕送りは、毎月家賃をはじめとした生活費でギリギリどころか、足りていない。あまり飯を食わない俺が、食費の一部を自分で稼いでいるくらいにしかないのだ。


「大学の近くって、微妙に家賃高いですよね。足元見られてる感じします」


「というより、需要の問題だな。大学に近くて綺麗なところに住みたいのは誰でも同じだろうし。……まあ、そんなところに住めるのは一部だけだろうけどな」


「女の子の方が綺麗な、というか新しいところに住んでますよね。理由はわかりませんけど」


「親の心配度合いだな。男はこの歳だと放っておかれることの方が多いし」


「あー……たしかに、そうかもですね」


そう言いながら、雨空が机の上のものをふたつ持ち、俺の隣に座る。ぎしり、とすのこが音を鳴らす。


そして、手に持った片方を差し出してきた。


「先輩、暇ならゲームしません?」


「お、珍しいな」


雨空は、俺がゲームをしているときに参加してくることはあっても、自分からしようと言い出すことはあまりない。大学生までやったことがない、と言っていたことが影響しているのかもしれない。


「なんとなく気分だったので」


俺がコントローラーを受け取ると、雨空がテレビの電源を入れながら、そう言った。


「こんな晴れた日はお出かけ日和、とか言うかと思ったんだが」


「出掛けるだけが天気のいい日の過ごし方じゃないですよ」


「それもそうだな」


そこには本当に同意する。出掛けるだけが休日の過ごし方ではないのだ。家でゲームも立派な予定である。


「さて、何する?」


「ええと……じゃあ、まずはこれで」


そう言って、雨空がひとつのゲームを選択する。カチリ、とコントローラーのボタンを押す音がして、ゲームが起動する。


「せめて勝負にはなってくれよ?」


にやり、と笑いながら挑発すると、雨空は頬を膨らませて。


「んなっ!? ……絶対勝ちます」


そう言って、画面に向き直った。


布団の恨み、晴らさせてもらう!

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