第5話 少し違った白い山

「今日の晩ご飯、何にします?」


ドーナツを食べ終え、そろそろ席を離れようか、というタイミングで、雨空がそう聞いてくる。


「あー……そろそろ肉が食いたいな、肉」


最近餅がメインになりすぎて、あまり肉を食べていなかった気がする。そう思うと、無性に肉が食いたくなり、気づくと俺はそう言っていた。


「お肉ですか。うーん……あ、じゃあタンドリーチキンをメインにしましょう。帰りにお買い物してもいいですか?」


「おう。……じゃ、今から行くか」


「はい」


そんなわけで、俺たちはショッピングモールの1階にある、食品スーパーに来ていた。


「で、何買うんだ?」


カートにカゴを乗せ、ゴロゴロと転がす。子どもの頃にこれに乗っていたのを思い出して、乗りたくなるが、さすがに乗らない。……乗らないぞ? 乗りたいが。


そんな俺の子どもの葛藤には気づかず、雨空が、ええと、と人差し指を立てる。


「鳥もも肉です。あとは、適当に安いものを買って帰りましょう。今、冷蔵庫の中身があんまりないですし」


「正月って食うもの限られてるからなあ」


そんなことを言いつつも、冷蔵庫の中身がなくなっていることに気づいていない自分に呆れる。相変わらず、自宅の冷蔵庫を管理していないな……。


「お餅しか食べてなかった気がしますね……」


「だな……。まさかお互いに実家から餅が送られてくるとは思ってもいなかったからな」


年が明けてしばらくしてから、俺の部屋には実家から仕送りが送られてきたのだが。その中身がほとんど餅だった。まさか1人暮らしの息子に3袋も1kgの餅を送りつけてくるとは……。


そして、雨空も同じだったらしく、2袋届いたから、と俺の部屋へと持ってきたのだ。そしてさらに。


「ですね……。それに先輩、自分でもお餅買ってましたよね」


「年末に買ったな。というか、雨空も買ってなかったか?」


「買ってました。だからお餅がなくならないんですよね……」


そう、既に買っていたのだ。それもお互いに。結果、俺と雨空、ふたり合わせて7袋ほど餅があるのだ。夏のそうめんを彷彿とさせるストックである。防ぎようがない……。


「手軽だから重宝はしてるんだけど、量が多すぎるんだよな……」


「あれ、なんとか食べないとですね……」


「……またアレンジ頼む……」


「頑張ります……」


脳裏に餅の量を思い浮かべて、ため息を吐く。消費期限切れが先か、食べ切るのが先か、まさかのデッドヒートだ。そうめんよりタチが悪い。


そうこう話をしている間にも、雨空はあれこれと野菜や魚、そして肉をカゴへと放り込んでいく。


「調味料、切れてたりしないか?」


「大丈夫ですよ。先輩はなにか欲しいものあります?」


「そうだな……あ、あれが食いたい。ぜんざい」


「いいですね。軽く、デザートみたいな感じで食べましょうか」


「おう、頼む」


「はーい。じゃあ、小豆の缶詰買って帰りましょう」


久しぶりのぜんざいに、少しテンションが上がる。


さらには久しぶりの肉ときたものだ。


ひと足早い脱正月の食事を楽しみに、帰路へとついた。

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