エピローグ ポストの中身

「じゃ、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


雨空の部屋の前、という珍しい構図で、いつもと逆の順番で言葉を交わす。


ひらひらと手を振る雨空に、軽く手を振りながら早く扉を閉めろとジェスチャー。


少し不服そうな雨空が、扉を閉めて鍵をかけたのを見届けてからエレベーターに乗る。


久しぶりに、丸一日遊び尽くした気がする。……1日ではなく、2日、か。


大晦日から正月までほぼ遊んでいたわけだ。まさに大学生というやつである。


……まあ、たまにはそんな日があっても許される。……許されるよな?


大学が休みなんだから許されるな、うん。


どこに向けてかわからない言い訳をしていると、エレベーターが1階へと着いて止まる。降りて、エントランスを抜け、自動ドアをくぐると、一気に温度が下がる。


「さむ……」


隣のアパートまで、ほんの少しの距離を走る。……しんどいな。身体が明らかに衰えてきている……。


階段を駆け上がり、2階へ。廊下に落ちているチラシかなにかの紙が、俺の隣を通り抜けて飛んでいく。新年からチラシ配りとはご苦労なことで。


鍵を突っ込み、雑に開ける。片手に持っていた酒の福袋を台所の端に置いて、リビングへと移動する。


そして、先ほどの風に舞っていたチラシで思い出したポストを確認する。ほとんど郵便物など来ないのだが、確認していないと雨空に怒られることが多々あるのだ。


……まあ、中身はおおよそチラシなのだが。


チラシ、チラシ、チラシ……。


「……ん?」


大量のチラシの中に、他とは違う硬めの感触がひとつ。ハガキが入っている。珍しいな。


気になって見てみると、成人式の知らせ、らしい。


……そういえば、そんなものあったなあ……。


完全に忘れていたが、一応行っておいたほうがいいのだろうか。


面倒だな、とも思わなくないのだが……。


……別に、今日考えなくてもいいか。


そう思い、ハガキを適当に置いて、シャワーを浴びる。


浴室から出ると、急激な眠気に襲われる。そういえば、今日は眠れていないんだったな……。


それを自覚すると、眠気が格段に強くなる。その反面、雨空の香りとか、感触、温かさみたいなものがハッキリと──


そこで、無理やり思考を打ち切る。これは良くない。


思考スペースを眠気に譲り、さっ、と寝る準備を整えてベッドへ。


新年らしく、最後にもう一度抱負でも考えておこうかと思ったが、布団の魅力と睡魔には勝てない……。


そう思い、俺はゆっくりと意識を手放す。


ふわり、と。


ベッドから、心地の良い甘い香りがした気がした。

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