第15話 おみくじの前に

本殿から逸れるて少し歩くと、お守りをはじめとしたありがたいものが売っている。


「お守り買っとくか」


「ですね。ひとつ買っていきましょう」


売店、という呼び方が正しいのかは知らないが、というか違う気がするが、ともかくそんな感じの場所へと向かう。


ご利益や色、形によって並べられたお守りは、多すぎてどれを選べばいいのかはわからない。


「……どれを買えばいいんだ……? 交通安全……は違う気がするな。あんまり移動しないし」


「学業とかありますよ。あとは、無難に健康ですかね?」


「あー……健康にするか」


なんとなく、学業オンリーよりも健康の方が必要な気がする。何事も健康から。健康第一である。


「……たしかに、先輩はその方がいい気がしますね」


「……だよなあ」


昨年に続いて今年も風邪で倒れる、なんてことにはなりたくない。夏にも体調を崩していたりと、健康から離れたところにいる感じがするしな。……雨空には迷惑をかけっぱなしである。雨空に感謝を。


「じゃ、俺は健康のお守りで。雨空はどうする?」


正面にあった青いお守りを手に取って、隣に視線を移す。雨空は、それぞれお守りを見つつ顎に手を当てる。


「うーん……わたしも健康にします。学業は自力でなんとかしますし」


しれっとそんなことを言ってのけるあたり、雨空の成績が良いことがよくわかる。テスト毎にインスタント神頼みをする俺とは大きな違いだ。神に感謝を。


下らないことを考えながら、金をお納めしてお守りを受け取る。ちょっと上品な言い方をしているだけで、普通に金を払っただけだ。


「……お守り、高いよな……」


地味に財布に痛手を食いつつ、おみくじコーナーを目指す。


「罰が当たりますよ……」


財布の中を確認している俺を、雨空が呆れたように見上げる。


「いや、わかってるんだが、やっぱり高いとは思ってしまうんだよな……」


「その値段で1年保険に入ったと思えば安いものですよ」


「その例えはおかしいだろ。なにかあっても補償はないんだぞ」


「気持ちの問題ですよ! 気持ち! なにも無いよりお守りがある方が、なにかあっても大丈夫って、気分的に楽って話です! もう! 変なこと言ってないで早くおみくじ引きましょう!」


そう言って、雨空はぐいぐいと俺の腕を引っ張って歩く。……その精神論みたいなのもよくわからねえな……。なにも楽にならなくないか? あと保険はなにかあったらそこから支払う額上がるからな?


そんな風に考えながら、腕を引かれるままに歩いていく。


「ひゃ!?」


「うお!?」


数歩進んだところで、なにかに躓いた雨空が体勢を崩す。それに引っ張られて、俺もバランスを崩すが、なんとか持ち堪える。


体勢を戻した俺の腕を支えに、雨空も体勢を戻す。


「す、すみません……ありがとうございます」


「おう」


あはは……と恥ずかしそうに笑う雨空。それ自体は可愛いから良いのだが、ひとつ気になることが。


「……参拝して、お守りを買ったのに途端に転けそうになったわけだが、今年、大丈夫か?」


「……大丈夫ですよ、多分」


なぜか、ふい、と雨空が目を逸らした。


幸先の悪い新年になったら最悪だな、と思いつつ、今度は並んでおみくじコーナーへと歩きはじめた。

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