第16話 じゃんじゃかシェイク

おみくじのある場所にはすぐに着いた。というか、隣にあった。まあ、こういうのはまとめて置いておいた方がわかりやすくていいと思う。……その分、やたらと人は集まってしまっているのだが。


「人、多いな……」


「ま、まあ、おみくじを引いたら移動する人ばっかりですし、結構人はすぐに移動してますけどね……」


俺の呟きに、少し引きつった表情の雨空がそう返す。目の前のごった煮状態を見れば顔も引きつるというものだ。かく言う俺も引きつってそう。


「……行くか」


「……行きましょう」


もう人混みに疲れたなあ、と思いつつも、これで最後と思い直して突撃する。


なんとか1番前まで辿り着いて、テーブルの上にあるおみくじを掴んだ。


ここの神社のおみくじは、鉄製の六角柱の中に番号の書かれた鉄の棒が入っており、それを見て、隣のテントで番号を告げると紙がもらえる、というシステムだ。


「ほれ」


掴んだ六角柱を雨空に渡す。これ、案外重いな。


「ありがとうございま……重! よしょ、じゃあ……えい!」


雨空は、じゃんじゃかとけたたましい音を立てて、六角柱を振ったあと、それをひっくり返す。


「ええと……」


重さでふらふらとしてしまうせいで番号が見えないらしく、なんとか出ている棒を掴みながら、それを読もうと格闘している。俺は六角柱を預かり、雨空が棒の番号を読み上げる。


「17、ですね」


「じゃあ次は俺が」


雨空の17が書かれた棒を中に戻し、俺もじゃんじゃかと音を鳴らしながら六角柱を左右に振る。うるせえなこれ……。


「よっ……と。……29か」


片手で持つには微妙に重い六角柱を抱えつつ、棒の番号を読む。……うん、良いのか悪いのかまったくわからねえ。


「で、隣のテントに行けばいいんですよね?」


「そ、番号を言えば紙が貰える」


「なるほど、じゃあ早速貰いに行っちゃいましょう」


捌ける人の流れに乗って、隣のテントへと移動。そして列へと並ぶ。


「……考えてみれば、不思議だよな」


ふと思ったことがあり、小さく呟くと、雨空が首を傾げる。俺の腕に頭を擦り付ける形になっているが。髪乱れるぞ。


「なにがです?」


「いや、文化性が多様だな、と。この間までクリスマスって言ってたのに次はお参りって、宗教感覚がカオスな気がする」


「あー……。まあ、日本にはそれぞれのものに神様がいるじゃないですか」


「たしかに。色々司ってるな。果ては付喪神だっているわけだし」


付喪神とは、物に宿る神のことだ。


「そうです。日本は一神教じゃないですし、八百万の神とも言いますし、だから他の宗教イベントをしててもおかしくないとは思いますよ。たくさんいる神様のひとりのイベントってことで」


「なるほど」


一神教の人には怒られるかもしれないですけど、と付け加える。


「……ま、普段から神に祈ってるわけじゃないからな」


「……それはそうですね。都合の良い時だけ……」


呆れたような、それでいてバツの悪そうな表情で雨空が笑う。たしかに、都合よく祈っている気がする。腹が痛いときとか特にな。腹痛は人の力ではどうにもならないのだ……。


そんな、少なくとも神社でするような内容ではない話をしていると、俺たちの番が回ってくる。それぞれ番号を伝え、紙をもらって列から離れる。


さて、今年最初の運試し、といこうじゃないか。

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