第10話 怒涛の福袋
結果から言おうと思う。
やっぱり、そんなことはあった。
「さあ、行きますよ先輩!」
目を輝かせる雨空が、そう言って駆け出しそうな勢いで怒涛の購入をした福袋は、今俺の両手にぶら下げられている。
既に、片手に3つずつの計6つ。
そして、雨空自身はさらに新たな福袋を手に入れるべく、俺の目の前にある化粧品の店に突撃していった。
……これ、あと何個持たされるんだ……。
げんなりしつつも店の外で待っていると、ほくほくとした雨空が紙袋を片手に出てくる。
「買えましたー!」
嬉しそうな雨空を見ると、毒気を抜かれてしまうものの、さすがに言わなければならない。これ以上は俺の指が千切れかねない。
「それはよかったんだが、あといくつ?」
「ええと……あと3つですね」
「ええ……まだ結構あるな……」
「年に一度ですからね! それに地元にはなかった福袋! どうしても気になって仕方がないんです!」
「……まあいい。もうここまできたら最後まで付き合ってやる……」
「えへへ……ありがとうございます!」
テンション高めの雨空と、テンション低めの俺は、並んで次の店へと向かう。
……これ、側から見たらカップルなんてものじゃなくて、妹に振り回される兄、みたいな光景なのでは……。
「次はここです!」
そんなわけのわからないことを考えつつ、両手の痛みを紛らわしていると、雨空がそう言って店を指差す。
「……ここ、何の店だ?」
「ガーデニングのお店です」
「ガーデニング? 雨空って家庭菜園とかしてたか?」
「してないですよ。ただ、ちょっとやってみたいな、と」
「へえ……」
そう呟いて、ひとつ大きな欠陥に気がつく。
「でも、雨空の部屋って日照ないよな?」
「……あ」
雨空の住んでいるマンションは、特殊な形状をしており、六角柱になっている。その中でも、外側に面していない位置にあるのが雨空の部屋だ。
外側に面していない、ということは、もちろん太陽光もろくに当たらない。つまりは植物は育ちにくい環境なのだ。
そのことを失念していた雨空が、冷や汗を垂らす。
「……せ、先輩の部屋のベランダでしようかと……」
「人の部屋で勝手に家庭菜園をはじめようとするな」
「い、いいじゃないですか! とれたて野菜ですよ! 美味しいですよ!」
あまりにも適当な説得理由に、思わず笑ってしまう。
「わ、笑ってますけど本気ですからね! 美味しいとれたて野菜をその場で調理ですからね! 地産地消です!」
「思ったより必死に説得するな!? ……まあ、別に構わんが」
ベランダには、特に何かを置いているわけでもなく、ただ洗濯物を干しているだけだ。プランターでの家庭菜園くらい、特に問題もない。
「い、いいんですか!?」
俺からの許可が予想外だったのか、驚いた顔の後に表情が明るくなる。
「まあ、プランターくらいなら別に」
……というか、雨空の私物が俺の部屋に置かれることなんて、もはや今更だからな……。台所とか俺の預かり知らない調理器具とか山ほどあるからな……。
「ありがとうございます! では早速買ってきますね!」
表情明るく雨空は、店内へと疾風のように消えていく。
……プランターが入っているということは、もしや袋が大きいのでは?
そのことに気づいた俺は、またひとつため息をつくのだった。
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