第9話 俺にもわかることがある
「……」
「……」
雨空のセットしたアラームが鳴り響き、ベッドから飛び跳ねてお互いの身体を離した俺たちは、なんともいえない空気感になっている。ちなみに一睡も出来ていない。
「……あの」
「……なんだ」
「……なかったことにしましょう」
「無茶言うな!? ……まあ、それが1番、か」
「だと、思います」
まったく、雨空も結局そうなるのなら、言わなければいいものを……。
「……とりあえず、出かけるか」
「はい」
夜にした約束通り、まずは初詣を──と思ったものの、福袋がなくなっては困る、ということで、福袋を手に入れるために、俺たちは身支度を整えて2駅向こうのショッピングモールへと向かう。
「で、今日の予算は?」
それなりに混雑している電車に乗り込み、入り口近くに立ちながら俺は雨空に問いかける。
「これくらいです」
そう言って、雨空はカバンから財布を取り出し、控えめに口を開く。
隙間からは諭吉らしき札が1枚、2枚、3枚……。
数えるのを諦めた俺は、顔を上げて雨空を見て。
「……多くないか?」
「……そんなことないです」
雨空がすっ、と目を逸らす。
「いやいやいや、さすがにこの量は多いだろ……。福袋ってそんなに値段高くないよな?」
俺の記憶だと、ひとつ1万円くらいのものでも高い方だったと思うのだが……。
「……いっぱい買うので」
「……いっぱい?」
昨日の夜の、恐ろしい量の購入リストを呟いていた雨空を思い出す。……え、あれ全部マジで買うのか?
「……なあ、雨空。まさか……」
それを確認しようとすると、タイミング悪く電車が駅に着いたらしい。
「あ、着きました! 行きますよ先輩!」
雨空は、これ幸いと会話を打ち切り、俺の腕を引っ張る。
「お、おいこけるから引っ張るな。……で、まさか昨日言ってたやつ全部買うつもりじゃないだろうな」
バランスを取りながら、雨空の隣へと追いつく。誤魔化されないぞ。
「……」
「……」
「……それはお楽しみ、ということで!」
雨空が、ぴっ、と人差し指を立てて、片目を閉じる。可愛くしても、なあ……。
「それ、買うって言ってるのと同じなんだが……」
「……そんなことないです」
雨空が、またも視線を逸らす。
雨空のその反応は、そんなことあるんだよなあ……。
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