第11話 20歳になったら
福袋もとい家庭菜園キットを持たされた俺は、またも店の前で待っている。
次は、雑貨屋だ。何に使うのかまったくわからないものが置かれている。わかることはオシャレだということだけだ。
……あのサボテンいいな。ひとつ買うのもアリかもしれない……。
遠巻きにサボテンを眺めつつ、雨空が戻ってくるのを待っているのだが、さすがにサボテンにも飽きてきてしまう。
ぐるり、と周りを見渡すと、同じような状況の人たちがちらほらと見える。
全員死んだ目をしているな……。
なんとも悲しい光景に、サボテンの方がまだマシだと思い、視線を元に戻そうとする。
そのとき、ちらりと視界の端に気になる文字が見えた。
「ん? ……酒の福袋?」
どうやら、雑貨屋の隣は酒造店だったらしい。正確には、酒造店の出張店舗、といったところだろうか。
少し気になって、両手の荷物を持ち直しながら店先に寄る。
……重い。
福袋に近づくと、説明が書かれている。
ええと。
「日本酒や焼酎、リキュールなど多様な種類のお酒がランダムに入っています。……へえ、面白そうだな」
「わ、本当ですね。面白そうです」
「おお!?」
雨空が、ぴょこり、と隣から飛び出す。その手には、またも福袋が握られている様子を見ると、どうやら今回も買えたらしい。
「びっくりするから、急に飛び出して話し出すのはやめろ、な?」
「そんなにびっくりするような出てきかたしてませんけど……。にしてもこれ、面白そうですね」
不満げな表情を見せつつも、雨空は視線を福袋の説明へと移す。
「何が入っているのか、気になりますね」
「だよな。……いや、お前は飲めないよな?」
危うく気にせず会話してしまうところだったが、雨空はまだ未成年だ。お酒は20歳になってから、である。未成年飲酒、ダメ、ゼッタイ。
「わかってますよ。ただ中身が気になるっていうだけです。……あとは、まあ、お酒に詳しくなりたいな、とは思いますね」
「詳しくなってどうするんだ?」
飲み会に頻繁に参加する、なんてことは、心配だ。アルコールは危険なのだ。……俺はそこまで飲んだことはないが。
そんな俺の心配を他所に、雨空はちらり、とこちらを見る。
「……先輩と色々な種類のお酒を飲んでみたいな、と……」
「……それは、俺もしてみたいな」
少し頬を染める雨空に、俺は視線を逸らしながら返す。
今年は雨空も20歳になる。となれば、酒は解禁だ。そのときに、色々一緒に飲み比べられるのは、きっと楽しいだろう。
「……ちょっと荷物見ててくれ。買ってくる」
「あ、はい」
そう言って、雨空に両手の荷物を預ける。
「!?」
視界の端に、重さに驚く雨空が見える。どれだけ重かったか理解してもらえたようでなによりだ。
ぴんときた福袋をひとつ手に取って、レジへと向かう。
1袋1万円だったらしく、財布から札が1枚消えた。福袋、恐ろしいな……。
……まあ、それでも。
今年の12月にひとつ楽しみが出来たと思うと、それはそれでアリだ。
新年になったところにもかかわらず、1年の最終月に想いを馳せる。
……楽しみだな。
そう心の中で思いながら、俺は諦めて荷物を床に置いている雨空の元へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます