第3話 甘いのか信頼感か

雨空指揮のもと、順調に大掃除は進んだ。部屋は見違えるほど──とは言えないが、それなりに綺麗になったと思う。


開始から3、4時間ほどして、ようやく終了だ。長かった……。


「疲れた……。あと体がホコリっぽい気がする」


部屋自体は綺麗になったものの、その分自分の体が汚く感じる。汗をかいたのもあるかもしれない。


「シャワー浴びたらどうです?」


「ああ、そうする」


そう言って、俺は着替えを持って脱衣所へと移動する。


軽くシャワーを浴びるだけのつもりだったが、もう普段の風呂と同じように体も洗ってしまおう。あとからまた入るのは正直面倒だ。


そう思い、軽く湯をかぶった後、さっと体を洗ってからシャワーを浴び、浴室から出る。


事前に用意していた服を着て、脱衣所を出ると、雨空は掃除中と同じラフな格好のままだった。


「ここに来てから服着替えたって言ってなかったか?」


言外に、着替えないのか? と含ませると、雨空は真顔で言う。


「ホコリっぽいまま綺麗な服を着るのはちょっと……」


「まあ、気持ちはわかるが」


「というわけで、先輩」


……なんだか、嫌な予感がする。


「お風呂、貸してください」


そう言って、雨空は自分のカバンからなにやら色々と取り出す。その用意周到さ……。


「……お前、最初からそのつもりだったな?」


確信を持ってそう言うと、雨空はにこり、と笑って、


「もちろんです!」


と言った。


「あのなぁ……」


なにか言おうとするが、それを言う前に雨空が逃げるように脱衣所へと向かった。それから、ぴょこ、と顔を出して、にやり、と笑う。


「覗いちゃダメですからね」


「覗かねえよ!」


「知ってます」


くすくすと笑いながら、脱衣所へと戻っていく雨空は、なぜか少し不満げに見えた気がする。……気のせいだろうけれど。


にしても。


「俺も甘くなったな……」


半年くらい前なら、雨空にこんこんと説教をしたであろうシチュエーションだ。


最近は俺の価値観が適当になってきたらしく、そういう説教はない。


……改めて考えてみると、甘くなったのではなく、雨空への信頼感が増したのかもしれない。


そっちの方がしっくりとくる気がした。


……それとは別に、なのだが。


シャワー音が気になる──!

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