第2話 日頃の行いと視線
ラフな格好で、ということで、スウェットを寝巻きにしている俺は格好そのままで、掃除をはじめることになった。……まあ、寝巻きの他に、動きやすい服を持っていなかったのだ。
雨空はまず台所を、俺は部屋全体を掃除する。
「思ってたよりもホコリってあるんだな」
家具を移動させたり、普段目につかないところを拭いたりすると驚くほどにホコリが溜まっている。昨年は掃除もしなかったので2年分だ。
これだけ一緒に暮らしてきたのかと思うと、戦慄と共に謎の愛着が湧いた。さらば、俺の同居人……。
「ホコリに愛着持っても、裏切られて終わりですよ」
謎の哀愁を感じていると、雨空が台所から顔を出す。
「お前、ついに見てないのに思考を読むようになったか……」
「いえ、さすがにそこまでは。今見た瞬間になんだかホコリに向ける視線じゃないものを感じたので。……まだまだ精進ですね」
「これ以上成長しなくていいからな!?」
今より思考を読まれるなど、それは予知の域だ。予知者にはならないでほしい。
「冗談ですよ。そこまでは普通に無理です」
「なら、いいんだが……」
雨空なら、やりかねない気がするんだよなあ。
「それで、なにかあったか?」
「?」
雨空は、どういうことかわからない、と言うように、首を傾げる。
「いや、わざわざこっち覗いたってことはなにかあるのかと思って」
俺の言葉に納得したのか、雨空は、ああ、と呟いて続ける。
「先輩がサボっていないか確認しただけです」
「ええ……普通に掃除してるが。というか、俺ってサボりそうに見えるか?」
そう見えているのならちょっと心外だな、と思う。俺は、自分でもやることはやる人間だと思っているのだ。
しかし、雨空はそうではなかったらしく。
「見える、というより経験則です」
「経験則?」
「……今まで、どれだけ講義を休もうとする先輩を起こしてきたと思ってるんですか」
「……そうですね」
反論の余地、なし。なるほど、経験則。
「と、いうわけで、先輩。しっかり掃除してくださいね。見てますからね」
そう言いながら、雨空は台所へと戻っていく。ラフな格好の後ろ姿は新鮮だ。これはこれで良いものですね。
そんな考えを端に寄せ、先ほどからずっと手に持っている雑巾を握り直す。……湿り気がないな。そろそろ濡らしなおした方がいいか?
そう思いながらも、とりあえずキリの良いところまで、と先ほどの部分を拭きなおす。真冬かつ密封性の低い部屋で気温は低いはずなのに、不思議と寒くはない。むしろ暑い。掃除は思っているより体を動かしている扱いらしい。
……視線を感じた。
一瞬だけ雨空がこちらを覗いたらしい。雨空、集中出来ないからやめてくれ、な?
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