第19章 12月31日/1月1日

第1話 大掃除です

12月31日。説明するまでもなく、1年を締めくくる最後の日だ。


そんな日にすることは、まあ、ひとつだろう。


「先輩、大掃除です!」


そう、大掃除である。


……大掃除、ではあるのだが。


珍しく昼間まで起こされなかったと思ったら、急に目の前に現れたのは、普段は見ない格好をした雨空だ。


「……お前、その格好でここまで来たのか?」


「そんなわけないじゃないですか。ここで着替えたんですよ!」


そう言う雨空の格好は、普段の派手ではないが可愛いという服装ではなく、動きやすさ重視のラフな格好だ。緩めの長袖に、緩めの長ズボンという組み合わせが、どこか体操服を彷彿とさせる。


「……なぜか、やる気を感じる」


「なぜかもなにも、やる気しかありませんけど」


「……やるのか?」


「やります。ほら、起きてください」


謎にやる気に満ち溢れた雨空に、ベッドから引きずり出される。


「せっかくなので、徹底的に掃除しますよ!」


「ええ……年末なんだからゆっくりしようぜ……」


「年末だからこそ、掃除するんですよ。今年一年の汚れを落として綺麗にしてから新年を迎えるんです」


乗り気になれない俺は、なんとか掃除を回避するべく考える。年末に掃除する文化、必要ないと思います。


頭をフルパワーで使っていると、ひとつ思いつく。


「というか、雨空の部屋の掃除はどうした?」


思いついた、というより気になったことだ。普通は自分の部屋を掃除するもので、それ以外を掃除することはない。まずは自分の部屋のはずだ。


自室を掃除していないなら、俺の部屋より前にそちらを優先するべきである。俺はまた寝ます。


そんな風に勝ちを確信していた俺に、雨空は当然のようにこう言った。


「午前中に終わりましたけど」


「……マジ?」


「マジです。普段から掃除してますし、時間がかかりそうなのは昨日のうちにやっておきましたから」


雨空は、先輩はひとりだとやらなさそうですし、と続ける。


「なので、次はこの部屋を掃除しますよ!」


「やりたくねえ……」


その俺の呟きは虚しくもスルーされていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る