第4話 冒涜と忘却

「ん、美味いな」


俺は、カルボナーラを口に運んだ。


「先輩……それ、絶対人前でやらないでくださいね……」


「もうお前の前でやってるんだけど……」


そうめんが上手く絡まらず、早々にフォークで食べる事を諦めた俺は、箸でパスタを食べている。


それに対し、目の前の雨空は器用にくるくる、とフォークに巻き付け、和風きのこパスタを口に運んでいる。


咀嚼し終えた雨空は、こちらを見て、


「わたしは別に構いませんよ。先輩との付き合いも長いですし、それくらいで幻滅したりしませんし。ただ、外ではマナー的に良くないといいますか、パスタに対して冒涜的な食べ方といいますか……」


「冒涜的ってお前な……。そもそもこいつ元はそうめんだから箸でもセーフだろ。むしろ箸推奨だ」


雨空は、そんな理屈を捏ねる俺に呆れたようにしている。


「そうめんは調理されてパスタになったんですから、もうそうめんじゃないです」


「いや、元がそうめんならどこまでいってもそうめんだろ」


「……もしかしてこれ、哲学じゃないですか……?」


「かもしれないな……。この話やめるか」


「ですね」


答えの出ない話を放棄して、別の話題を探す。


すると、雨空がふと、何かに気づいた素振りを見せる。そして、なぜか慌てはじめた。


「どうした?」


わたわた、としているように見える雨空にそう問いかけると、微妙な顔でこちらを見る。


「先輩、わたしさっき、先輩との付き合いも長いって言ったじゃないですか」


「言ったな。まだ半年くらいだけど」


「それを長いと言うか短いと言うかは置いておいて、です。もっと早くに聞いておくべきことがありました」


神妙な顔になった雨空に対して、俺は心当たりがなく、微妙な表情になってしまう。


「そんなこと、何かあったか……?」


「あったんですよ。……先輩、誕生日っていつですか?」


「……あ」


そういえば言ってなかったし、聞いてなかった気がする──!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る