第5話 誕生日とデリカシー
「わたし、なんで今まで先輩の誕生日、聞いてこなかったんですかね……?」
「女子って誕生日聞くの好きだよな。なんか意味もなくクラスメイトの誕生日を聞き回ってるやつとかいた気がする」
小中学生くらいの頃、クラスの中心に近い女子が片っ端から聞いて回っていた覚えがある。
なぜか誕生日にメッセージカード配ってたりするんだよな……。アレ、処分に困るんだ。
「なぜかはわたしもわかりません。わたしは聞いて回るタイプじゃなかったので」
「どっちかというと雨空はバレンタインに友チョコしてるタイプに見える」
「先輩の中のわたしは料理と直結してるんですか……? 友チョコ、してましたけど……」
やはりしていたらしい。
というか、雨空と料理が直結してるのはそりゃあそうだ、としか言いようがないんだが……。
完全に胃袋を掴まれた思考をしている俺に、雨空が、そうじゃなくて! と声を上げる。
「先輩の誕生日、いつですか!?」
食い気味に聞いてくる雨空に気圧されながら、答える。
「10月29日だけど」
「こ、今月末! セーフ! セーフです!」
「なにがセーフなんだ?」
「誕生日をスルーしてなかったことが、ですよ!」
「誕生日ってそんなに重要か……?」
「大事です! 年に1回のイベントですよ!」
どうやら、イベント事をスルーするのは、雨空的にナシらしい。
今後は俺もそういうイベント事に気を張るべきなのだろうか。……それは面倒だな……。
そう思いつつ、ひとつ聞き返す。
「それで、雨空の誕生日はいつなんだ?」
「わたしは12月7日です」
「結構近いな」
「ですね。ひと月と少しくらいの差ですね」
ということは、丸1年ほど差があるのか、と思い、そこでひとつの疑問にぶつかった。
「……なあ、ひとつ聞いていいか?」
「なんです?」
首を傾げる雨空に、久しぶりに怒られそうな問いかけをした。
「何歳?」
「せ、先輩! 女性に年齢を聞くのはアウトです! デリカシー!」
案の定怒る雨空に弁明をする。なんだか、いつかにもこんな風に叫ばれた覚えがあるな。
「俺にデリカシーを求めるなって。それに、歳食ってるわけじゃねえしいいだろ」
「良くないですー! ……まったく、今回のは本当に他の人に言うと怒られるどころか袋叩きに遭いますからね。注意してくださいよ」
先ほどとは一転、はぁ、と諦めたようにため息を吐く雨空に、俺は忠告を無視してもう一度聞く。
「で、何歳?」
「話聞いてました!? まったく、本当に先輩ってば……。……18歳です」
「予想通りだな。そんなに渋ることもない年齢だろ」
「だから、さっきも言ったじゃないですか……。他の人に言ったらダメですよって。……それで、なぜ急に年齢を?」
「そういやそうだっけか。……で、理由な。もし、いや雨空に限って無いだろうとは思っていたけど、万が一浪人してたなら俺と年齢一緒とか、もしくは年上だったりするのかな、と」
「なるほど。たしかに大学って高校までと違って年齢の違う人が同じ学年って結構ありますよね」
そう、そうなのだ。親しく話していた人が実は年上でした、なんてことはよくある。アレ、向こうが気にしてなくてもなんだか気まずくなるんだよな……。ついタメ口を躊躇ったりとかしてしまう。
「ま、そんなわけで一応確認しておきたいな、と思っただけだ」
「なら先輩は何歳なんです?」
「19歳。俺も現役で合格してる」
「なら、正しくというか、年齢的にも先輩後輩で合ってますね」
なんだか嬉しそうにしている、ように見える雨空に、くすぐったいものを感じる。
「ま、そうだな。別に、年齢が違うとかでどうにかなるとは思ってないけどな」
「わ、先輩も最近、色々言うようになってきましたね」
「……失言が増えただけだ」
くすくす笑う雨空と、またも漏れた本音に恥ずかしくなりながら、俺はカルボナーラを勢いよくすすった。マナー違反上等だ。
……今後は、気をつけて発言しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます