第3話 調子に乗ってしまった後輩

気合の入った雨空は、山というには高さのなかったそうめんの袋を抱え、台所へと入っていく。


見たところ、3袋ほどだろうか。


本当に山ほどあったそうめんを、ここまで食べ切ったことに軽い感動すら覚えるが、それはまだ早い。


なにせ、3袋残っているのだ。


3袋くらい一瞬では? と思う人がいるのであれば、一度1袋湯がいて食べてみるといいだろう。


アレを一食で食べるのは厳しいものがある。……いやね、本当に。腹が破裂するかと思った。二度とやらない。


過去の経験を思い出し、今後に生かしていくべく反省していると、台所からぴょこ、と雨空が顔を出した。


「出来ましたよ、先輩。今日のはちょっとオシャレな感じの自信作、というか、自信のあるアイデアですよ」


「へえ、そんなこというの珍しいな」


そう言って、立ち上がり、台所へと向かうと、そこにはそれぞれ形状の違う、いくつかの皿が所狭しと置かれている。一人暮らしの家に、統一された種類の皿があるはずもなく、雑多な印象を受ける。


その上に載っているのは、そうめんだが、それよりも相応しいのは、こちらな気がする。


「……パスタ?」


「そうです! パスタ風そうめん! あ、でも、ただパスタを食べるわけではないですよ?」


「……どういうことだ?」


たしかに、パスタの載った皿は、2枚よりも多い。そして、そのパスタは、複数種類あるのだ。


「いわゆるビュッフェ形式みたいなものですね。好きな味のパスタを取り分けて食べるんです」


むん、と胸を張る雨空。そう言われると、この種類にも納得はいく。それに、美味そうではあるが──


「いや、さっき持っていった袋から察してはいたけど、多くないか?」


そう、多いのだ。そうめん3袋って結構な量だぞ……。


昼食に食べ切れる量ではない、と思っていると、雨空はそこも考えていたようで、想定通りと言うように口を開く。


「そこは心配しないでください。今日はこれが昼食で夕飯でもあるので」


「なるほど。自分が食いたいときに食うわけか」


自分で取り分けるから、自由に食べるタイミングも選べるわけだ。


「と、いうわけで。左から、たらこパスタ、カルボナーラ、ミートソース、ナポリタン、ジェノベーゼ、クリームパスタ、和風きのこパスタです」


「よりどりみどりだな。……いや、本当に作りすぎじゃねえか?」


「途中から楽しくなっちゃいまして……えへへ」


雨空は、照れ笑いをしながら、こちらに取り分け用の皿と、フォークを差し出してくる。


「お、サンキュ。食い切れるかどうかはともかく、とりあえず食うか」


「はい。今日のは全部自信作ですよ!」


「結局アイデアだけじゃなく料理も自信作なのかよ」


誇らしげな雨空に苦笑しながら、俺は最初に、カルボナーラを取り分けることにした。

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