第2話 今日は俺の

「あ、わたし切符買います」


そう言って、雨空は券売機へと向かおうとした。


どうやら、ICカードを持っていないらしい。


便利だから持っていることに越したことはないぞ、と思いながら、券売機に向かう雨空を引き止める。


「もう切符買ってあるから。ほれ」


そう言って、俺はあらかじめ買っておいた切符を渡す。


先ほど、早く着きすぎたときに済ませておいた用事とは、切符を買っておくことだ。


「あ、ありがとうございます。いくらでしたか?」


そう言って財布を取り出そうとする雨空を制止する。


「いいよ、今日は全部俺が払う」


「ええ!? それは申し訳ないですよ」


驚く雨空。


「いいんだよ。そもそも今回は俺が言い出したことだし」


というか、雨空には言っていないが、これは課題のためなのだ。


雨空はそれを知らないとはいえ、俺の都合に付き合わせているのに金を払わせるのは申し訳ない。


「で、ですけど、普通に遊びに行くだけですし……。というか、旅行に行きたいって言い出したのわたしですし」


そう食い下がってくる雨空。


「あー、ほら、日頃の礼も兼ねて、だ」


「別にそんなの構わないですよ」


うーん、思ったよりも強情だな。


……これはあまり言いたくなかったのだが、仕方ない。


「いいから、今日の分は奢られとけ。その……なんだ、デート、なんだろ?」


「! ……わかり、ました。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


自分で言って、顔が熱くなるのを実感する。


だが、効果はあったらしい。


デートでかかる代金はすべて男が払うべきだ、という風潮は良くないことだとは思うが、今回はそれを利用させてもらおう。


素直に切符を受け取った雨空と、俺は改札へと向かう。


帰省以来の電車移動に懐かしさを覚えながら、俺たちの日帰り旅行、もとい水族館遠足ははじまった。

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