第3話 関係性が大切で

「わたし、先輩は、デートのときに男の人が払うべきだ、っていう風潮には乗らないタイプだと思ってました」


電車に乗り込み、ふたりで並んで席へと座り人心地ついてから、雨空がそう言ってきた。


「まあ、そうだな。その風潮はどうかと思う。けどな──」


「けど?」


流れていく景色を、雨空越しに車窓に見ながら答える。


「払うかどうかって、人によって変わると思うんだよな」


「と、言いますと?」


「例えば、初対面の人に奢るのって嫌じゃないか?」


「まあ、そうですね。なんでわたしが、って感じです」


「だろ? そこから仲の良さが上がっていくほど、比例してまあ奢ってもいいかなって気持ちも上がっていく」


「ですね。親しい人ほど損した気にならないというか、まあいいかなって」


「さらに親しさが上がれば、損とかそういうのじゃなくて、まあ嬉しそうだしいっか、ってなる」


「たしかに、ご飯とか、嬉しそうに食べてくれるとなんだか奢りがいがある気がします」


「で、その究極形が彼女にデートで全額奢る、なのかな、と思うわけだ」


「なるほど……うん? 先輩、今のもう一度お願いします」


そう聞き返してくる雨空の目は真剣だ。


「は? いや、だからデートで彼女に奢るのは、相手が嬉しく思ってくれることが嬉しいのかな、と」


「……なるほど……。つまり、先輩は、今日わたしに対して全額奢るという行動で気持ちを表しているわけですね……!」


「ん?」


どういうことだ?


改めて自分の発言を思い返す。


……。


…………。


………………!?


「いや、そうじゃねえよ!?」


どうやら、俺の全額奢る宣言と、この考え方を合わせることで、雨空は俺からの遠回しな告白だと思い込んでいるらしい。


たしかに、雨空が喜んでくれることは嬉しいことだと思うし、最近満更でもなくなってきているのはたしかだ。


だが、まだ今ではないとも思う。


なにか、決定的な関係が変わる瞬間、そのときに俺がどう思っているのか。


それが、きっとこの関係を新しいものへと変えていくはずだと、そう思っている。


それが、どんな形に変わるのかはわからないが。


だから、今は変えるつもりはない。


……雨空には、申し訳ないと思うが。


だから、今言う言葉はこれだ。


「別に、そういう意図があって言ったわけじゃないからな!?」


そう言って、俺は雨空の思い込みを否定する。


すると、雨空はぷく、と軽く頬を膨らませ、


「わかってますよー。そこまで全力で否定しなくてもいいじゃないですかー」


と、不満そうに漏らす。


「え、あ、おう。すまん」


思わずそう謝る。


けど、勝手に思い込んだのは雨空だよな……?


そんな疑問は横に置いて、俺はしばらく雨空の機嫌をなおすべく、奮闘することとなった。

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