第5話 履修登録はお済みですか?
あれからさらにどんな髪型が好みなのかを事細かに聞かれていると、気づけば夜になっていた。
「さて先輩。そろそろ夕飯のお時間なのですが」
「おう」
言いたいことはなんとなくわかる。
「お腹、空いてます?」
「あんまり」
「ですよね」
昼にガッツリ焼肉を食べると、さすがに夕飯までそんなに腹は減らない。
「じゃあ軽く、少しだけ作りますね」
そう言いながら雨空は、部屋の端のそうめんの山から一袋取って、台所へと向かった。
しばらくして出てきたのは、そうめんのもっともシンプルな、というか本来の食べ方である、つゆと麺だけのものだ。
麺を軽くつゆにつけ、勢いよくすぞぞ、とすする。
「なんか、一番そうめんって感じがするな」
「あー、わかります。そうめん食べてるなーって感じしますよね」
「そうそう」
ぞぞ、ずぞぞ、と無言ですすっていると、雨空がちらり、とこちらを見た。
「そういえば先輩」
「ん?」
「そろそろ大学はじまるじゃないですか」
「おう」
「履修登録、しました?」
履修登録。それは、自分が大学で取る講義を選び、申請する作業だ。
それぞれ講義には定員があり、それを超えると抽選になってしまう。人気のある講義は特に毎年多くの学生が抽選落ちしているものだ。
「一応な。お前は?」
「しましたよ。先輩、どの講義受けるんですか?」
「あー、なんだったっけな……」
そう言って、スマホを叩き、履修登録の画面を出す。
すると、雨空が移動して、俺の隣へとやってきた。
「こんな感じだな」
表示した画面が見えるように、雨空の方へとスマホを傾ける。
「へえ……あ、わたしこれ受けますよ。あとこれも。……他にも結構同じですね」
「そうなのか? 単位が取りやすいって聞いたやつを選んだらこうなったんだが」
俺が講義を選ぶ理由は、ゼミで必要か、興味があるか、もしくは単位が取りやすいか、だ。特に最後のは重要だ。というか、もはやそれ以外の理由はあってないようなものだ。単位は取れればいい。
「あ、そうなんですか? わたしは教科書がいらない講義を選んだらこうなりました。余計なことにお金使いたくないですし」
「……なるほど。そういう考え方もあるのか」
言われてみれば、教科書代も馬鹿にならない。参考書はなぜ一冊で数千円もするんだ……。金がいくらあっても足りないぞ……。
「でも偶然とはいえ、先輩とこんなに一緒の講義を受けることが出来るのは楽しみです」
照れたように笑う雨空に、俺は視線を逸らした。
「ま、そうだな。これで俺もまた遅刻しなくて済みそうだ」
「……先輩はもう少し自立してくださいね」
「持ち帰って前向きに検討することを善処する」
「せめて持ち帰って検討するところまではクリアしてください」
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