第4話 ヘアスタイル
焼きそば風そうめんを食べ終えて、しばらくしてから、俺たちは片付けに取り掛かっていた。
「この機械、思ったよりも洗うのめんどくせえな」
俺は洗い物を、雨空はゴミ捨てを担当している。油受けを洗うことに苦戦していると、ゴソゴソと動きながらゴミを回収している雨空が、視線はそのままに問いかけてくる。
「というかそれ、焼肉以外に使えるんですか? せっかくなら何かに使いたいところですけど」
「それがないんだよな……。これ、どうしようかね」
「無計画に買うからですよ……。まあ、また焼肉するときまでは眠っていてもらいましょう」
「だな」
狭い部屋のスペースを取られるのは困るところではあるが、まあ仕方ない。また近々行うことを心に決めながら、ガシガシと洗う。油、取れねえな。
「そういえば先輩、この間髪の色の話したじゃないですか」
「ん? ああ、したな」
俺がなぜ髪を染めないのか、とか、雨空に似合う髪の色は、とかそんな話だ。
「それがどうかしたのか?」
「いえ、次は髪型の話をしようかと」
「……なんで?」
「わたしがそろそろ髪を切ろうかなー、と思っているので、先輩の好みの髪型が聞ければと思いまして」
「はあ……」
「で、スバリ先輩。好きな髪型は?」
そう言いながら、ゴミを集め終わったのか、雨空が隣へと寄ってくる。斜め下から覗き込む、上目遣いだ。その瞳には好奇心が溢れている。
ひとつため息を吐いて、観念して話しはじめる。
「……短めで」
「ほうほう、ベリーショートですか?」
「横は長めの刈り上げ」
好奇心に溢れ、輝いていた雨空の瞳が、濁ってジト目に変わっていく。
「……それ男の人の、というか先輩が髪切ってくるときのオーダーでは?」
「そうだが?」
「女の子の髪型の好み聞いてるんですよ!」
「いや、好きな髪型としか言わなかったから」
「話の流れをしっかり汲んでくださいよ!」
むくれる雨空を横目に、してやったり、と思っていると、雨空の瞳がさらに細くなった。
「……わかったわかった。とはいえだな……どんな髪型が好み、か……」
正直、あまり考えたことはなかったような気がする。
悩む俺に、雨空が助け舟を出した。
「長い方か短い方。どっちが好きですか?」
「そう、だな……。どっちかというと、長い方、か」
「なるほど。どれくらいの長さですか? 例えば……腰くらい? 肩甲骨くらい? 肩くらい?」
そう言いながら、雨空が手で高さを示す。
「この中だと肩か肩甲骨くらいだな」
「では、次です。髪はストレートか、結ばれてるか、どっちが好きですか?」
「なんか性格診断みたいだな……。結ばれてるっていうと、ポニーテール、とかか?」
「はい。他にもですね、サイドテールとか、ツインテールにツーサイドアップ。あとおさげとか、そういうのですね」
雨空が、言った髪型に合わせて簡単に手で髪を纏めていく。まるでヘアースタイルショーだ。
「うーん……結んでない方、ストレートの方が好きだな」
「なるほどなるほど。先輩が好きなのは多分、セミロングですね」
「言われてみればそうかもな。で、これ聞き出してどうするんだ?」
そう軽率に発した言葉に、返ってくるのはさも当然のような声色の回答だ。
「その髪型に合わせようかと」
「……なんで?」
「好きな人の好きな髪型にするくらい、よくある事ですよ?」
雨空は、当然のように振る舞いつつ、少し恥ずかしいのか、頬をほんのり赤く染めている。
「……ソウデスカ」
それを聞いた俺も、恥ずかしくなり、片言に返す。顔が熱い。
その恥ずかしさを紛らわせるように、俺は一心不乱に油汚れを擦った。
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