第3話 締めの……?

肉を食べ終わり、締めの焼きそば準備します、と台所でごそごそしはじめた雨空が、15分ほどで作り上げたものが、今目の前にあった。


「……なあ、雨空」


「なんですか?」


確信犯ながら、とぼけて首を傾げる雨空。


「焼きそばってのはな、どんな麺でも焼けばいいってもんじゃねえんだよ」


「いや、麺を焼いて、ソースで味付けしてるので、紛れもなく焼きそばですよ」


雨空が微笑む。その笑顔から視線を逸らし改めて、目の前にある料理を見る。


明らかに、麺が細い。


「いやいやいや、さすがにそうめんをソースで味付けしたものを焼きそばというのは違うだろ……」


そう、雨空が焼きそばとして出してきたのは、そうめんを使った焼きそばだ。


そうめんが食いたくなくて、そうめんに飽きて焼肉をしたというのに。


「なんで締めでまたそうめんを食わなきゃいけねえんだ……!」


「先輩が締めは焼きそばだなー、とか言い出すからですよ。あとそうめんを大量に貰ってきたのも先輩ですし」


「前半は異論があるが後半は言い返せねえ……」


「ほらほら、冷めるんで早く食べてくださいね」


その言葉に仕方なく、焼きそばへと姿を変えられたそうめんをすする。


「……わかってはいたけど、美味いんだよな……」


まあ、当然といえば当然だ。


ソースの絡んだ麺が美味しくないはずがない。


それも、雨空が作ったとなるとなおのことだ。


「そうでしょうそうでしょう。そうめん創作料理で工夫し続けたわたしの技術はなかなかのものですよ」


「……でも、今日だけは普通の麺がよかったなあ……」


未練がましくそう呟きながら、焼きそばをすすり続ける。


そんな俺に、雨空が声をかける。


「……先輩」


「なんだよ」


「どっちにしろ、晩ご飯はそうめんでしたよ」


「……だよなあ」


「そしてお昼にそうめんを食べたからといって、晩ご飯がそうめんじゃなくなるわけではないです」


細くしなやかな指が、ぴっ、と部屋の隅に置かれたそうめんの山を示す。


そこには、山盛りのそうめんがあって。


「……だよなあ」


俺に選べる選択肢は、諦める以外なかった。

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