第4話 疲労感と満足感

「……疲れた……」


そう呟いて、俺は荷物を床に置いてベッドへと倒れ込む。


俺が服を買わされてからも、他の店舗を巡り、途中からは雨空の買い物に付き合わされ、帰宅したのは太陽が完全に沈んでからだった。


「満足です……!」


疲れ果て、グロッキーになっている俺とは対照的に、雨空はツヤツヤしていた。


ふんふん鼻歌なんかを歌いながら、キッチンへと軽やかなステップで移動していく。


対して、微動だにせず布団へ突っ伏す俺。


買い物ひとつでここまでテンションが別れるものなのか……。


「二度と、服屋行かない」


そう呟いて、俺は目を瞑る。


疲労のおかげか、すぐに眠気が襲ってきて、俺は眠りへと落ちていった。


直後。


「先輩、出来ましたよ」


そんな声が聞こえて、目を覚ます。


時計を見ると、帰宅から20分ほど経っているようだった。


どうやら、一瞬で起こされたように感じていたらしい。それほどまでに疲れていたのか……。


「今回は冷うどん風、です」


ごとり、と置かれた丼からは、柔らかで、食欲をそそる出汁の香りがする。


載せられているのは、ネギに温泉卵だ。


「いただきます」


見た目には麺が細いせいで違和感があるが、ずるる、と麺をすすると、その違和感はほとんどない。


「そうめん、結構万能だな」


「まあ、こだわりがなければほとんどの麺料理に代用出来ると思いますよ」


「問題は、そんな万能なそうめんでも量が多すぎるってことなんだけどな」


「来年は貰ってくるにしても、量を考えて貰ってきてくださいね」


「おう。どれくらい入ってるか確認して持って帰ってくる」


今年は、特に気にせず親がビニール袋に詰めたものを持って帰ってきたため、こんなに大量にそうめんが入っているとは思いもしなかったのだ。


明らかにお中元の処理。親のほくそ笑む顔が脳裏に浮かぶ。


「まったく……俺の両親は何を考えてるんだか……」


「一人暮らしだから、食費が減らせるようにーって事だとは思いますけど」


「それにしても、入れすぎだろ……。絶対自分たちが食わないから入れたんだろ」


「まあ、確かにひとりで食べる量ではないですからね……」


苦笑いで雨空が、部屋の隅にそびえ立つそうめんの山をちらり、と見る。


まったく減っている気がしないのは、気のせいなのだろうか。


ずるずる麺をすすりながら、そろそろ普通に米とか、肉とか魚とか、そういったそうめん以外が食べたいなぁ、と思った。

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