第3話 マネキン
最寄駅から2駅向こうにある、大型ショッピングモール。
そこには、あらゆる専門店が所狭しと詰め込まれている。
その一角のブースで、俺は今──
「うーん……こっち……いや、こっちの方が……」
雨空に、マネキン代わりにされていた。
「雨空、俺帰りたい」
「ダメです。あ、これとか……」
女子の買い物は長いとは聞いていたが、これ程までとは……。
かれこれ同じ店で約1時間、あれかこれかいや違う、と服をとっかえひっかえ俺に押し付ける雨空。
正直、飽きた。
「これ……うーん……違う……」
雨空は、ぶつぶつ何かを言いながら、名前のよくわからない羽織りものを見ているようだ。
夏も終わりがけのせいか、店内に並ぶのは秋物が目立つ。
ぼぅ、っとマネキンや商品を見渡すと、絶対に俺の着ないタイプの服ばかりが並んでいる。
なにこれオシャレすぎ怖い。いや、オシャレかどうかなんてわからないのだが。
手近にあったTシャツを手に取る。シンプルな、胸ポケットが付いている白い物だ。
こういうシンプルな服の方が好きなんだよなぁ、なんて思いながら、タグを見る。
3500円。
「たっか……」
普通の白い布なのに高すぎる……。これだからショッピングモールにある専門店は怖いのだ。
1000円くらいの無地のTシャツで十分だ。素材も大して変わらないように思えるが、
何が3倍以上の価値なのだろうか。やはり、ブランド力なのだろうか。
Tシャツを折り畳み、元の場所に戻す。絶対買わない。
「先輩、これ、着てみてください」
俺が理解不能な価格設定に悩んでいる間に、雨空は目的のものを見繕ってきたらしい。
「……明らかに、俺の着ないタイプの服なんだけど……」
「いいから、試着してください!」
心なしか目がキラキラしている雨空に押し切られるように、俺は試着室に入れられる。
「……これは、うーん、似合わんだろ」
そう呟くと、遮るカーテンの向こうから雨空が声をかけてくる。
「似合う似合わないはわたしが決めるので、先輩は文句言わずに早く着てください。毎食そうめんにされたいんですか」
「わ、わかったからそれはやめろ」
来年はそうめんをもらってくる量を確認してから帰ってこよう。そう改めて決意しながら、俺は服を着替える。
先ほど、俺の見ていた白のTシャツに、水色っぽいシャツ。そして、黒のチノパンだ。
「一応、着替え終わったが……」
そう言って、仕切るカーテンをシャッ、と開く。
「わ、やっぱり印象違いますね」
「そうか……? なんか、落ち着かない感じはするが……」
「似合ってますよ、先輩。爽やかさが増した感じがします」
「わ、わからねえ……」
「先輩、ファッションには疎いですからね、仕方ないです。あ、他にも色々あるので。次はこれで」
「え、まだ続くのか」
それから、4セットほど着替えさせられた俺は、雨空曰く一番良かった最初の服のセットを買わされることになった。
まさか、ただの白いTシャツに3500円も払うことになるとは……。
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