第2話 技術と工夫

軽くシャワーを浴び、雨空の部屋へと連行された俺は、先ほどとは打って変わって快適空間にいた。


「おおおお涼しい……」


夏とはこんなに快適に過ごすことができたのか。エアコン万歳!


そんな風に思いつつ、あまりのやる気の出なさに床へと寝転がっていると、頭上から声がした。


「先輩、寝転がってないで起きてください。できました」


「おう」


両手に皿を持つ雨空に覗き込まれ、俺は体を起こす。……ちょっと見えそうだったなんて、思っていない。いないぞ。


「まずはしっかりご飯を食べてください。それが対夏バテに重要なことです」


俺がそんなことを考えているとはいざ知らず。雨空はテーブルにごとり、と丼を置いた。


「豚丼です」


「豚丼……重くね?」


美味そうではあるが、正直食べれる気がしない……。


「軽く食べられるように味付けには工夫がしてありますよ」


「ほう」


なら食べてみようか。


「いただきます」


そして、俺はひと口豚丼を放り込んだ。


さっぱりしている。タレではなく塩で味付けされているのと──


「レモンか」


「当たりです。レモンって結構色々さっぱりさせられるんですよ」


「へえ」


これなら食える。そう思い、豚丼を掻き込んでいると、雨空が不意にこんなことを言った。


「そういえば、あのときもこんな感じのことありましたよね」


「あのとき?」


「はい。わたしと先輩が出会ってしばらくしてからですかね。わたしが初めて先輩に料理をしたときです」


「……なんだっけ?」


「覚えてないんですか? たしか、5月の頭くらいで──」


そして、雨空は懐かしそうに話を始めた。

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