第3話 衝撃
「ええと、ここであってる……のかな?」
わたしは、知らないアパートの、知らない部屋の前で戸惑っていた。
手には手書きの地図。適当に描かれた地図では、ここが目的地であっているのか間違っているのかの判別がつかない。
そもそもなぜこんなことになってしまったのか。
それは、先ほどの出来事。
わたしの所属するゼミの先輩たちとのはじめての顔合わせがあり、その後解散となるはずだったのだが、家の方向やこの後の予定がないことも相まって、気づけば今日は欠席していたという先輩へ書類を届けなくてはならなくなってしまった。
提出期限まで時間がないらしく、早めに届けなければならないらしい。
そもそもわたしは新入生で、届け先の先輩のことすらよく知らない。にもかかわらずなぜわたしが……。
そう思わずにはいられない。しかし、頼まれて、もとい押し付けられてしまっては仕方がない。
そうは思っても、表札のないアパートの一室にたどり着いたわたしは、その扉の前で緊張を隠し切れないでいた。
間違ってたらどうしよう……。
そう、それが一番の懸念点。
しかし、悩んでいても仕方がない。
わたしは、意を決してインターホンを押す。
ぐっ、とボタンを押し込む感覚と同時に、ピンポーン、という小さな音が鳴り響いた。
部屋の中から音がしない。
「……いない、のかな?」
もう一度押してみる。ピンポーン。
やはり出てこないし、返事もない。
今日は諦めて帰ろう。
そう思った直後に、ガチャリ、と音が鳴り、扉が開かれた。
「……はい。……えっと……?」
そこには、顔色の悪い男性がひとり。
「あ、あの」
そこで、この人の名前を思い出す。たしか──
「雪城先輩、ですよね」
雪城雄黄。それがこの人の名前。……のはず。
正直に言うと、一度しか聞いたことがないから自信がない。
それでも覚えているのには、少し事情があったり。
「ん、ああ。……ええと、君は……」
「あ、ゼミの後輩の雨空蒼衣です。教授から資料を届けてほしいと言われまして」
鞄から資料を取り出し、渡す。それを聞いた先輩は、一瞬呆けた後、
「ゼミ……? うわ、マジか。そんな時間か。わざわざ悪いな」
と、今更寝過ごしたことに気づいたらしい。
「いえ、帰るついでですので。……あの、大丈夫ですか?」
とりあえず、用は済ませたから帰ろうと思ったものの、どうしても気になって聞いてしまった。先ほどから、やけに顔色が悪い。それに、なんだかフラフラしているのだ。
「ん、ああ。大丈夫大丈夫……。資料、ありがとな」
「そうですか……。では、わたしはこれで」
本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。ぺこり、と一礼をして、わたしは階段へと向かう。
ガチャリ、と背中越しに扉の閉まる音がして──
──ドシャ、と何かが倒れる音がした。
「!?」
振り返ると、立て付けが悪いのか、先ほど閉まる音がした扉が半開きになっている。
まさかそんなことはないだろうとは思うけれど、一応確認を……。
そして部屋を覗いてみると。
「だ、大丈夫ですか!?」
床に倒れた先輩が見えた。
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