第6話 勝手な予定を

あの尋問からまた数日が経った。


ようやく、この何もない田舎から、都会へと帰る日だ。


早朝に両親に車で駅まで送ってもらい、最寄りのほとんど電車のこない駅から、ローカル線を乗り継ぐこと数時間。ようやくローカル線を脱し、あとは乗り続けることまたも数時間で、大学の最寄駅へと着く。


着くのは遅めのお昼くらいだろうか。


ふと、先輩はしっかりご飯を食べているのだろうか、と気になった。


……気になってしまったからには、仕方ない。


帰りに先輩のアパートに寄ってみよう。


1週間ほどの短い期間といえど、わたしと先輩にしてみれば、長い間会っていない。


それが、帰省の時期がズレたせいで、短期間に2回もあったのだ。


お陰様で、夏季休暇の間、普段よりも先輩と会えていない。


なら、この残りの夏季休暇は、先輩とじっくり密度高く過ごすことにしよう。


とりあえず、夏祭りには行きたい。聞いた話によれば、花火大会もあるらしい。


そんな予定を勝手に組んでいると、窓の外に見慣れた景色が流れはじめた。


キャリーバッグの持ち手を掴み、立ち上がる。


開いたドアからホームへと降り、改札へと向かい、ICカードをかざす。


さて、きっといつも通りに死にかけている先輩に、しっかりご飯を食べていたのか聞いてみなければならない。


そこでふと、思う。


そういえば、先輩はわたしと出会ったときのことを覚えているのだろうか。


せっかくだから、今日にでも聞いてみよう。


そんな風に思って、わたしは先輩のアパートへと歩きはじめた。

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