第4話 わたし、わかってますよ
先輩が帰ってきてから1週間ほど。世の中はお盆に突入した。
となれば、当然帰省する人々が増えるわけで。
帰省するのは、もちろんわたしも例外ではない。
「では先輩、行ってきますね」
「おう、気をつけてな」
「はーい」
わたしがいなくなることで、早速外食を企んでいるのであろう先輩は、わざわざ駅まで送ってくれた。恐らく、このまま繁華街で早めの昼食を食べて帰るつもりなのだろう。
……来年は色々作り置きしておこう。
そんな風に小さな決心をしながら、わたしは改札へと向かう。
ICカードをかざし、ピッ、と軽い電子音を聞いてそのままホームへ。
これからの長い旅路を考えると憂鬱なような、久しぶり、と言っても半年もいかないくらいの実家が楽しみなような、よくわからない気持ちを抱えて、電車を待った。
ほどなくして、熱気を孕んだ風を纏って電車がホームへと到着する。
風の暑さに、少し顔をしかめながら、わたしは電車に乗った。
「はぅ……」
中は冷房が効いてて快適。思わず息が漏れる。多分先輩なら、現代技術万歳、なんて言ってそう。
空いている席に座り、見慣れた景色が離れていく様子を窓からぼうっ、と見つめる。
それから、どれくらい経ったのだろうか。
ちらり、とスマートフォンの時間を見ると、約1時間ほど経ったようだ。
「そろそろ、かな?」
そう呟いたわたしは、メッセージアプリを起動。ささっと打ち込んだ文面を、送信した。
『先輩、何食べたんです? ちょうど食べ終わったくらいですよね?』
ほぼタイムラグなく、スマホがヴッ、と振動する。
『なんで今食い終わったのがわかったんだよ怖えよ』
やはり食べ終わってすぐだったらしい。わたしにはなんでもお見通しですよ、なんて。
『推測ですよ。大体これくらいかなーって』
『それにしてもピッタリすぎて怖いわ……』
『で、何食べたんです?』
『ラーメン』
『やっぱりですか。毎日外食はやめて下さいね』
『わかってるよ。さすがにそれはしない』
『ならいいですけど』
本当に、わかってるのならいいのだけれど。
恐らくだが、わたしのいない間は食事が疎かになるに違いない。
ただでなくとも最近は溢れんばかりのそうめんを消費するために、そうめんばかり食べているのでバランス的には偏っていると言わざるを得ない。
わたしとしたことが……。
…………心配だなぁ……。
初めて会ったときからずっとなのだが、先輩は目を離すとすぐに死にそうになっている気がするのだ。
そのイメージには出会い方の問題もあるのだろうけれど、その後の生活力のなさというか、食への頓着のなさというか、まあそういったところからのイメージが大半だ。
冗談抜きで、わたしがいないと死んじゃうんじゃないか、なんて思うことがある。
……きっとそんなことはないんだろうけれど。
それでもなんとなく、そんな気がする。
そんなイメージもあって、頼りない人だな、とは思うこともある。決して、カッコいいわけでもなくて、どちらかと言えば面倒な性格の人だ。
それでも、一緒にいるとなぜか楽しくて。
だからわたしは、先輩のことが好きなのだ。
どこかに明確な出来事があったわけではなくて。心動かす言葉があったわけでもなくて。
ただ、わたしは、先輩といることが、過ごす時間が、交わす他愛もない言葉が、好きなのだ。
本当に、恋心というものはつくづく理解の出来ないものだ。まさに理屈じゃなく、感情のもの。
……だから。
いずれ必ず、先輩の理屈の、理性の奥にある感情を、引きずり出してみせる。
そんな風に、自分の中で決意を新たにしながら、窓の外をもう一度眺める。
たまには、自分の思いを整理して、言葉にすることだって大切なのかもしれない。
そんな風に思った。
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