第4話 理由と外と暇つぶし

結局、雨空の部屋は、目の前にあった。

537号室は、六角形の対角線の左側、その列の最も手前だった。


割と惜しかったですね、とは雨空の一言。


そして、そのまま雨空の部屋へ入り、一息ついたところで今に至る、というわけだ。


たった15分ほどで、強い風程度だったものが突風に変わり、外を駆け回っている。


しかし、さすがはマンション。愛しの我がポロアパート部屋よりも、明らかに音が小さい。俺もこっちに住みたい。


「どうぞ」


「おう、さんきゅ」


雨空の入れてくれた紅茶をひと口飲み、本題へ。


「それで、困ったことってのは?」


「……?」


こてん、と首を傾げる雨空。いつもより角度が深い。


「ああ、あれですか」


ワンテンポ遅れて理解したのか、曲がった首は元の位置へと戻っていった。


「お前呼んだ理由忘れてるってどうなの?」


「いや、特に重要ではないので」


「それ困ってるって言わねえよな……。まあいい。で、なんで呼んだわけ」


「……怒らないと約束してもらえます?」


雨空は、少し気まずそうに、目を逸らす。


「理由によるな。というか言ったらもう怒られるってわかってるだろ」


「まあ……」


「はぁ……なんでもいい、早く言え」


観念したのか、雨空は目を逸らしたまま口を開いた。


「……暇だったので」


「ほう、続けて」


「先輩も暇そうならお喋りでもしようかな、と」


「なるほど、それで?」


「それで、と言われましても。これですべてです」


「お前なあ……それ電話でもよかっただろ」


あえて顔を合わせる必要はなかった気がする。


「それは、まあ、あれですよ、あれ」


「どれだよ」


「電波とか、悪くなるかなーって」


「ならねえよ現代技術なめんな。……まあいい。もう来ちまったし、外はあんな状況だ。仕方ねえから付き合ってやるよ」


ちらり、と窓の向こうを見ると、先ほどよりもさらに荒れているように見える。


「ほんとですか! ありがとうございます!」


少しバツの悪そうだった先ほどまでと打って変わって、雨空は表情を明るくする。まったく、後ろめたくなるならやめとけってんだ。


「それで、わざわざ呼んだからには、面白い話題のひとつやふたつはあるんだよな?」


ニヤリ、と口角を上げて雨空を見ると、


「それはもちろん。ありますよ、面白い話」


と、雨空も同じく口角を上げて見せた。

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