第5話 なんでも命令権、発動!
それから数時間、紅茶を飲み、お菓子をつまみながら話をした。講義で起こった変な話しだったり、よくわからない課題の話だったり。はたまた思い出話だったり。
まあ、純粋に楽しかった、といえる、充実した時間だった。
しかし、問題がある。決して、会話が途切れたとかそういうものではない。
「なあ、また酷くなってねえか?」
外の状況が悪化しているのだ。このままでは帰れないのだが……。
「ちなみにですけど、台風が抜けるのは明日の朝らしいです」
雨空は、ぺちぺちスマホの画面を叩きながら、気象情報を確認している。
「移動遅いって言ってたわりには朝には抜けるのか。……つーか何。俺お前の部屋に泊まらなきゃいけねえのか?」
「逸れてきてるみたいです。収まりはじめるのは朝の4時くらいからですね。抜けるのは7時くらいです。危ないので泊まっていく方がいいと思います」
「マジかよ、どうしたもんか……ってお前、なんで嬉しそうなわけ?」
どういうわけか、雨空は少し嬉しそうにしている。そんなに俺の不幸が楽しいか。他人の不幸は蜜の味ってか。わからんでもない。
「気のせいですよ、気のせい」
「うーん……これからまだ強くなるのか?」
「そうですね、もうしばらくは強くなるみたいです」
となれば取るべき選択肢はひとつだ。
「なら仕方ねえ。今のうちに帰るか」
「え!? か、帰るんですか!? この中を!?」
「そりゃあまあ。さすがにお前の部屋に泊まるわけにはいかねえし」
この間、雨空が俺の部屋で、俺のベッドで寝るというイレギュラーが発生したが、あれはあくまで昼寝というか仮眠というか。決して泊まったわけではない。
「別にわたしは構わないんですけど」
「いや構え。この間も言ったろ? 男をホイホイ家に上げるなって」
「もう上がってる人がそれを言いますか。あとこの間言ってたのは『男の家にホイホイ上がるな』だったと思うんですけど」
じとっ、と半眼でこちらを見つつ、雨空は反論してくる。よく覚えてるな。
「似たようなもんだろ。あんまり男を信用するなって言ったよな?」
「適当ですね……わたし、先輩を信頼してるんで大丈夫って言いましたよね」
雨空は、じとり、と半眼を続けたままそう言った。
「俺も男なんですけど」
「そうですね、でも大丈夫です」
「大丈夫ではないな」
「大丈夫なんです」
「大丈夫じゃねえって」
大丈夫大丈夫じゃない論争がはじまり、数回の応酬を経て、雨空が立ち上がった。
人差し指をぴん、と立て、ビシッ、と前へと突き出す。
そして──
「ええい、なんでも命令権を行使します! 先輩は今日泊まって帰ってください!」
と、赤い顔で言い放った。
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