第7話 お説教と曲解

「ん……?」


かちゃかちゃという小さな音で、俺は目を覚ました。遅れて、いい香りが鼻腔をくすぐり、胃を刺激する。そういえば、腹が減っていた気がする。


痛む体を起こし、立ち上がると、キッチンに雨空が立っているのが見えた。

「あ、先輩、おはようございます」


「おう、おはよう……とは言っても、もう夜だけどな」


3時間くらい眠っていたのだろう。デジタル時計が表示しているのは、21時24分。


「雨空はいつ起きたんだ?」


「わたしもさっきですよ。30分くらい前です」


「ん、そうか」


なにか、寝る前に言おうと思ってたことがあったような……。


「あ、そうだ。寝る前の話の」


そう言い始めると、雨空は重ねるように


「先輩、ご飯できたので、持って行ってください」


と言ってくる。


「お、おう」


ひとまず皿をテーブルへ運ぶ。今日は和食の王道。焼鮭、わかめと豆腐の味噌汁、納豆、ほうれん草のおひたしだ。


「いただきます」


「いただきます。お、おひたし美味いな。……じゃなくてだな」


「……なんでしょう」


「マジで男の家で寝るのはやめとけよ。というか上がるのもやめとけ」


「それ、先輩が言うんですか? 家に上げるどころか家事わたしに頼りっきりなのに?」


「うっ……」


言い返せねえ……。


「ほら、あれだ。その、なんだ。他の男の場合はやめとけって話だ」


なんとか無理矢理まとめたものの、これ、結構誤解を生む言い方をしてしまったような……。


「……ほほう」


ような、ではない。間違いなく、してしまっている。


目の前に見える、キラリと輝いた雨空の瞳が、表情が、それを物語っていた。


「それはつまり、先輩は、わたしが他の男の人の家に上がるのは気に食わない、と」


口角が上がり、少し頬を赤くしている。雨空は、端的に言うと、ニヤついていた。


「いや、そうじゃなくてだな」


「先輩は、わたしを独占したい、と」


「そこまでは言ってねえよ!」


「そこまで、ということは、やっぱり気に食わないわけですね!」


「もういいわ、それで……」


俺は、諦めて味噌汁を飲んだ。

……いつも通り美味しゅうございました。

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