第3章 6月21日
第1話 日常に潜む小さな絶望
雲ひとつない青空。日に日に照りつける太陽の威力が増し、肌が焼け焦げる感覚が強くなる。そんな夏の始まりに。
「やめたいです……」
「わかる……」
部屋の中を、絶望が満たしていた。
大学生を経験した諸兄は理解してもらえると思う。
課題が、終わらないのだ。
課題内容は、現代社会の問題について2000字で自由に述べろ、というものだ。知らんがな。雑なテーマに教授の手抜きを感じる。
なぜ現代社会論なんて科目を履修したのか、履修登録をしていたときの俺をぶん殴りたい。そもそもまったく専攻と関係ないじゃないか。
ちなみに、雨空は食育論、とかいうよくわからないやつだった。そっちも字数は同じらしい。
2000字って、結構重いんだよね。
原稿用紙5枚分、と聞くと、案外なんとでもなりそうだがそうはいかない。
自分の考えなんてものは案外文字数が稼げないのだ。そこまで普段から深く考えることの方が少ない。
「どうしたもんかなあ……」
今から考えると、適当にテーマをを決めたのが悪かったのだろう。
しかし、新聞はとっていないし、普段からネットニュースを見ることがないため、他の話題など知らない。オマケに部屋のテレビはゲーム用で、ほとんどモニターのような扱いだ。
結局、SNSでやたらめったら流れてくる話題か、余程の大ごとでない限りは知らないのだ。
というか、実はこの話題も雨空から聞いたのが初めだったりする。
「わけわかんねえ……」
兎にも角にも、調べてみないことには始まらない、と色々調べてはみているのだが、やはり上っ面の知識だけでは大して書ける事もなく、かといって専門的になれば全くわからない。いわゆる手詰まりだ。
ノートパソコンの画面から目を逸らし、ちらりと向かいの雨空を見ると、そちらもどうやら苦戦しているらしい。うんうん唸りながら教科書を開いて、読んで、打ち込んで、そして同じキーを長押ししている。十中八九そのキーはバックスペースだろう。
集中の途切れた俺は、床へと倒れ込み、身体を伸ばす。どうやら相当凝り固まっていたらしく、軽い痛みに思わず呻き声が漏れた。
ぐいぐいと色々なところを伸ばしていると、この部屋唯一の時計が目に入る。デジタル時計が示す時刻は13時37分。そろそろ飯時というやつだ。なんなら少し過ぎている気もするが。
「雨空、気分転換だ」
いまだ唸り続ける雨空に、俺は声をかけた。
「気分転換ですか」
「おう、このままだと多分終わらねえ。一回休憩を挟もう」
「……そうですね、そうしましょう」
雨空は、両手を上へと伸ばし、身体を伸ばしながら、首を傾げる。
「んん……っ。それで先輩、休憩はともかく、気分転換ってなにするんです?」
そんな雨空に対し、俺は待ってましたとばかりに一言。
「飯食いに行こう」
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