第3話 財布にやさしい昼食を
ゼミを乗り越え専攻科目の講義をなんとか寝ずに昼休みへと辿り着いた俺は、食堂へと来ていた。
先にテーブル席を取り、鞄から財布を取り出し券売機の列へと並ぶ。
この食堂で1番安いカレーの食券を買い、カウンターへと向かう。
カレーを受け取り、取っておいた席へと戻ると、雨空が荷物を置いていた。
「おう」
「あれ、またカレーですか」
「一番安いからな」
「たまには他のも食べた方がいいと思いますよ」
小さくため息を吐きながら、雨空は鞄から財布を取り出し、券売機へと向かう。
その間に俺は2人分の水を用意し、先に食べることにした。ここのカレーは温かくてもそんなに美味しくないが、冷めるとさらに味が落ちるのだ。
しばらくすると、雨空がトレーを手に戻ってくる。
ちらり、と覗くと、カレーだった。
「お前もカレーじゃねえか」
「だって、先輩がお昼に毎日カレーばっかりなので、夕飯にカレー作れないじゃないですか。ひとりのときにカレーは余りますし。わたしもたまにはカレーが食べたいです」
「いや、別に気にせずカレーでいいんだぞ? 俺全然カレー続いても大丈夫だから」
むしろ、ウェルカムだ。というかたまには美味いカレーが食いたい。
「先輩がカレー続きでも大丈夫なことは分かってます。そうじゃないと毎日お昼カレーなんて出来ないでしょうし」
まあ、それもそうか。
「ならなんでカレーを避けるんだ?」
「先輩、放っておくとここのカレーとインスタントラーメンしか食べないじゃないですか。だからなるべく他のものにしようかと」
「失礼だな、インスタント焼きそばも食うぞ」
どっちかというと焼きそばの方が好きだ。焼きそばは安定して美味いし、ハズレがない。
「どっちにしろインスタントです。そればっかりだと体に良くないことは変わりありません。先輩はもう少し食に気を使うべきです」
「……食えたらいいかなって」
空腹が満たせればそれでいい。美味ければなお良し。体への影響なんざ気にしてられない。
「だからわたしがご飯作るようになるまでインスタントばっかりだったんですね……」
はあ、とため息を吐いて呆れる雨空。
「最初の頃は作ってたんだぞ」
「え、先輩、料理できるんですか!?」
まあ、そういう反応になるだろう。なんせ雨空が知っている俺は料理をしたことがないどころか、インスタントばかり食ってるからな。
「出来るぞ、簡単なものなら」
そう言うと、雨空は驚きの表情から一転、怪しいものを見る目つきに変わる。
「卵かけご飯、とか言いませんよね?」
「んなベタなこと言うかよ」
「……そうめんもダメですよ」
「さすがにもうちょい出来るわ」
「じゃあいったい何が出来るんです?」
訝しげな雨空に、俺は自信満々に答える。
「一番得意なのはオムライスだ。しっかり半熟のやつな」
「……ほんとですかぁ?」
まだ怪しんでいる様子の雨空。こうなったら仕方ない。
「そこまで疑うのなら食わせてやろう。今夜は俺が作る」
「ほほう、そうまで言うってことは、期待していいんですよね?」
「もちろん、覚悟しとけよ」
「楽しみにしておきます」
ニヤリ、と笑う俺に、雨空もまたニヤリと口角を上げる。
「ところで先輩」
「なんだ?」
「全然カレー食べてないですけど、大丈夫ですか?」
腕時計を見ると、昼休み終わりまであと10分だった。
「大丈夫じゃない」
次の講義室、どこだったっけか……。
そんなことを思いながら、正面で、くすくす笑う雨空の声を聞きつつカレーを掻き込む。
ちなみに、講義にはなんとかギリギリ間に合った。
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