彼女は俺を好きじゃない

Joker

第1話

 彼女を意識するようになったのは、いつだっただろうか……。

 確か去年の夏だった気がする。

 みんなで海に行ったときに、俺は彼女が好きなのだと気が付いた。

 でも、俺は今日そんな彼女からこういわれた。


「私、アンタの友達の裕翔君が好きなんだけど、協力してくれない?」


 わかってた。

 彼女は俺以外の人間には優しくて、口調も穏やかで、外見もかなり良くて、俺みたいなどこにでもいる普通の男じゃ釣り合う訳がないと。

 裕翔はサッカー部のエースだし、良いやつだし、俺の一番の友人だ。

 そんな奴ならと俺は不思議と裕翔に怒りや嫉妬を覚えなかった。

 それから俺は彼女に協力し、裕翔との仲を取り持つようになった。


「れ、連絡先ってどうやって聞くのが自然かな?」


「普通に連絡先教えてって言えよ」


「それが出来ないから言ってるんじゃん!」


「めんどくせぇ……」


「今なんか言った?」


「言ってませんよぉ~いってっ!! 何すんだよ!」


「真面目に考えてよ!」


 彼女とそんな風にやり取りしながら、どうやって裕翔にアプローチするかを考えた。

 その度に俺は心臓の辺りが痛くなるのを感じた。


「なぁ、鹿野さんってどんな人?」


「え? なんでだよ」


 どうやら裕翔へのアプローチはうまくいったらしい。

 裕翔が彼女に興味を持ち始めた。


「あぁ、あいつはいいやつだよ。優しいし、気遣い出来るし……綺麗……だし……」


「ふぅーん……そうか」


 言っててなんか悲しくなってきた。

 何、やってんだろ俺……。

 彼女と俺が裕翔へのアプローチを続けること数か月。

 ようやく彼女が裕翔とのデートにこぎつけた。

 着ていく服の相談なんかを受け、俺は彼女を送り出すことになった。


「だ、大丈夫かな?」


「あぁ、大丈夫だよ」


「へ、変じゃない?」


「馬子にも衣裳だよ」


「どういう意味よ!」


「可愛いって言ってんだよ、いいからさっさと行けよ」


 彼女を送り出し、俺は一人でため息を吐く。

 彼女と裕翔の距離が縮まるほど、俺はどんどん悲しくなっていった。

 あの恰好も俺のためじゃない、裕翔のためのオシャレなのだと考えると深いため息を吐きそうになる。

 そして、彼女は裕翔と仲良くなった。


「それでね………」


「へぇ、そうなんだ」


 美男美女でかなり絵になる。

 もう俺の力は必要なさそうだ。

 今も彼女は楽しそうに裕翔と話をしている。

 俺と話しているときとは違う、女の顔で……。


「……これでいいんだ」


 彼女が幸せなら、俺はそれでいい。

 そう俺は自分に言い聞かせることにした。

 本心はもちろん違う。

 悲しくて悲しくて仕方がない。

 彼女とは小学校からずっと一緒でずっと仲良くしていたのに、一気に距離が離れてしまった気分だった。

 二人の邪魔をしてはいけないと、俺は二人と話すのを控えることにした。

 まぁ、これも俺の強がりだ。

 本当は二人と話をすると、泣きそうになるから、自分のために距離をとったのだ。


「なぁ、お前最近鹿野さんと一緒にいないな、喧嘩でもしたか?」


「別に喧嘩とかじゃねーよ、ただつるまなくなっただけだ」


 友人からもそんなことを言われるようになった。

 まぁ、でも友人は他にもいるし、別に寂しくなんかはない……全然寂しくなんて……ない。

 そう、思いたかったのかもしれない。


「……はぁ……」


 一気に俺は人生がつまらなくなってしまった。

 そして、そんな俺に彼女が相談してきた。


「あのさ……思い切って告白してみようと思うんだけど……」


 その瞬間、俺の中の何かが壊れる音がした。

 しかし、俺は彼女にいつも通りの笑顔でこういう。


「頑張れよ! 応援してる」


「うん……」


 これで良い、そうだこれで良いんだ。

 裕翔は良いやつだし、きっと彼女を大切にしてくれる。

 これでいよいよ俺はお役御免だ。

 そして、告白をする日の当日。


「がんばれよ」


「……うん……あのさ」


「ん? どうした?」


「あんた……最近何かあった?」


「え……」


「いや、なんか最近辛そうだから……大丈夫?」


「何を言ってんだよ、俺はいつも通りだぜ?」


「そう? ならいいけど……」


 なんでこいつは、こういうときだけ鋭いんだろう……。

 俺はそんなことを考えながら、彼女を送り出した。


「行ってこい」


「うん、いろいろ相談に乗ってくれてありがと!」


 彼女はそういって、裕翔のもとに行った。

 その後ろで俺はこっそり泣いた。

 女々しいったらありゃしない。

 かっこ悪い。


「何やってんだ……俺は……」


 彼女の幸せが一番?

 相手は一番の友達だから任せられる?

 二人が幸せならそれでいい?

 そんなの俺のただの強がりだ。

 本当は彼女にずっと傍にいてほしかった。

 本当はこんな時間がずっと続いてほしかった。

 でも、もう……その時間は戻ってこない。

 俺はその日、激しく後悔し、部屋で布団にくるまって泣いた。

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