第5話 3億円
「イージーすぎる」
Twitterを使って信者に買わせる手法は簡単すぎる。誰も注目していない株価が低迷しているときに買い集めて、集め終わったらTwitterで銘柄を発表。俺が集めていることを公開したら、買いが殺到して株価は暴騰する。ただしそれだけだと数回やれば、バカでも気付く。
「ねこ男さんが銘柄を公開したら暴騰してすぐに下がって大損する」
これがみんなに定着すると誰も俺の銘柄を買わなくなる。だから俺は公開する銘柄にストーリーをつけることにしている。
「今は赤字だけど、経営者が変わってからは赤字が縮小されている」
「開発している製品がすごい。実用化されたら株価は10倍は堅い」
こうやって銘柄に物語をつけてやると、初心者や情弱はすぐに飛びつく。みんな夢をみたいからだ。
「この100万円が1000万円になるかもしれない」
実現しそうな夢を見させることで、人は盲目になる。かといって、ポジティブな情報だけを与えてもだめだ。定期的に警鐘を鳴らす。
「株は儲からない」
「ほとんどの人が損をする世界だ」
すると愚民どもは、「ねこ男さんは他の人とは違う。正しいトレードの方法を教えてくれるし、教えてくれる銘柄は本物だ」と思い込む。決して俺が騙しているわけじゃない。嘘はついていない。事実をもとに楽観的展望を、「個人の感想」として述べているにすぎない。みんなが勝手に妄想を膨らませているだけだ。
俺が銘柄を公開してから買いが殺到する。そして翌日は値を下げる。そこで、物語を公開する。すると、値下がりして手放したくなった信者たちが握力を強くして、持ち続ける。俺はそこでまたじわじわと買い集める。徐々に上昇するチャートに信者たちは確信を持って、俺と同じように買い始める。ここまでくれば成功は近い。
信者以外の傍観者、イナゴたちも注目して買い始めて、ますまる株価は上昇する。俺は途中で買った玉ぎょくは、そいつらに売りさばきながら回転する。ある程度高値になり、これ以上新規の買いが入らないと踏んだら売りさばく。もちろん、俺が利確するときは企業を褒め称える物語も佳境だ。
「今買わなければ損する」
そう思わせるほどに、その企業を絶賛するのだ。とある殺人事件の犯人には、エレベーターに乗り合わせた赤の他人に、自分が捨てようとしていたゴミ袋にいかに価値があるかをプレゼンして、エレベーターを降りるときに5万円を支払わせた、という逸話がある。俺がやっていることもそれに似ている。ただ株は価値がゼロということはないからそこまでひどくない。東証に上場している時点でいちおう実態がある会社だし、めったなことがなければ上場廃止になることはない。
俺が最近やっている、「坂元製薬」ではようやく総資産が3億円になった。新規の信者も増えているようで先行きが明るい。「あいこ」という女トレーダーは中々有望だ。俺のツイートは必ずいいねをつけるし、リツイートもする。最近は資産が倍増しているようで、自分なりに銘柄を考察していて頼もしい援護射撃だ。
相場師を抱いた女 成瀬あおい @naruseaoi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。相場師を抱いた女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます