復活2
声が、聞こえる。
懐かしい、声が。
『君は本当に怠惰だね』
それがお前の口癖だった。
いつもいつも、人の顔を見ればそればかり。呆れたように――諦めた様に笑って、同じ台詞ばかり繰り返していた。
『いい加減に起きなさい!!』
アイツがそう言って笑うなら、お前はいつもいつも怒りながら俺を起こしに来た。
起きろ働けと顔を見るたび煩くて敵わない。
――それでも、そんな決まりきった日々も、嫌いじゃなかった。
『君は本当に人が好きだね』
――別に、人が好きな訳じゃない。でも、人の作る食事や習慣は見ていて面白いと思ったから――嫌いじゃなかった。
『君は本当に、何なんだろうね』
それは俺が聞きたい。自分自身、己が何者なのかが分かって居ないのだから。
それでも、それを不便に思う事もなかったし、別に自分が何者なのかなんてどうだって良かった。
そう言ったら、お前は「君らしいね」といって――やっぱり微笑った。
「信じられない」「怠惰だ」「規格外だ」そういって、お前は呆れていたな。
――本当に、そんな怠惰で決まりきった日常が、嫌いでは、なかったのだ。
だからどんなに面倒くさくてもお前達を手伝ったし、珍しく沢山働いたと思う。
――どうして今更そんな事を思い出すのだろうとぼんやりと思っていたが、理由は直ぐに思い当たった。
何だかさっきから懐かしい声が聞こえるのだ。
こうして声が聞こえるくらい、ぼんやりとでも思考が出来るくらい自分が覚醒しているのだと分かってはいたが、それでもこの心地よいまどろみを手放したくなくて、再び寝入ろうとした。
――が。
『ほんっとうに信じられない!!』
『彼女の顔が頭から離れないんだ』
『幾通りもある運命の中で、貴方の運命だけが見えないのです』
『―矢張り間違っていた。全てを、滅ぼすべきだった』
『それでも貴方を失いたくないっ!!』
『私の全てを掛けて、君を――この世界を護ろう』
『ごめん……なさいっ!!』
溢れ出る記憶の奔流。
『待って下さい、お兄様』
『付いて来るなよっ!!』
『聞こえておられますか?グリード様……』
懐かしい声に混ざる、聞き覚えのある様なないような、不思議な声。
『逃げなさい』
『やめろっ!!クレア――――――ー!!!』
それがだんだんはっきりと耳に届き始めた時――
『君は本当に怠惰だね』
懐かしい声が、聞こえた気がした。
『いい加減に起きなさい!!』
完全に目が、覚めてしまった。
※ ※ ※
真っ黒な世界に、ぼんやりと浮かんでいた。どうやら完全に目が覚めてしまったらしい。
ちっと舌打ちをすると、ゆるゆると思案する。
さて、どうするべきだろうか?目が覚めたからといって、別に必ず起きなければならないわけでもなく、そもそも自分が完全に目覚める為にはかなりの面倒な手順が必要な筈だ。
「――と、言う事は、だ」
久々に声を出した所為か、どうにも違和感がある。しかし、それも直ぐにどうでも良くなる筈だ。
――何故ならば
「……寝るか」
再び寝入ってしまえば、声など出す必要もなくなるからだ。
何故自分が目覚めてしまったのか分からないが、だからといって起きる必要もない。このまま再び寝入ってしまえば、「何故目覚めてしまったのか」なんて些細な事は気にならなくなる。
我ながらなんて素晴らしい案なのだと肯定しながら、再び意識を沈ませようとした時――妙に懐かしい気配を感じた。
知らない気配と懐かしい気配の混ざり合った、不思議な存在。自分はそれを知らないが、そんな不思議な存在が稀に生まれる事をしっている。
近くを漂う「それ」の正体にアタリをつけると、男は「それ」が近付いて来るのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます