第3話 砂漠にいる老人

 午後5時過ぎまでずっと車で移動した。停まった処はある小さな店の前だった。店は道路の横にあるが、砂漠の中だから、普通の人はここに立ち寄らないだろうと思う。お店の建物は泥で作られていた、屋根は稲わらで覆われていた、ドアの前に一つテーブルが置いてあり、テーブルの上には日よけシートが張られていた、お店から少し離れた処に、雑毛犬が一匹は柱に紐で繋がれていた。


 お爺は車から降りて、お店のドアの前まで歩いて行った、そして大きな声を出して叫んだ。「相棒、出てこい!お前の兄貴は来たぞ!」


 お店の奥から、そうっと声が伝わって来た。「30分前からお前の匂いがしていたから知ってるよ。」そして、次の瞬間、ドアが開けられた。僕もちょうどドアの前まで行っていた、お店の中から出てきた老人を見て驚いた。老人は片足が不自由なようだ、さらに左目も失明している、杖を使って、体を揺らしながら歩いて出て来た。老人は僕をチラッと見た、僕は凄くびっくりした。老人は聞いた。「この子がみんかい?」


 お爺は笑って言った。「そうさ!儂らももう歳だな!儂の孫はもうこんなに大きくなったんだ!」


 老人は僕に手招きをして言った。「坊主、おいで!お爺さんに見せてごらん!」


 僕はお爺を見たが、お爺の顔は無表情だった。僕はゆっくり歩いて行った。その老人の前に行くと、老人は手を伸ばして、僕の肩を握った、とても力強い、僕は強い痛みを感じた。そして、彼は僕が服の中に隠して付けていた玉を取りだし眺めてから、笑ってお爺に言った。「お前の空息子は大損だな!この玉をみんにあげたのか?」


 お爺も笑って言った。「若い世代の事は儂らには関係無いさ!そんなことより相棒、何か食べ物を用意してくれ!儂は腹がペコペコだ!」


 叔父も迎合して言った。「唐叔父!本当に腹がペコペコだよ!早く!ジャージャ麺ジャージャ麺!お肉たっぷりのジャージャ麺がいい!」


 唐お爺はまた杖を動かして、揺ら揺らしてお店の奥に入った。僕は好奇心にかられて、付いて行こうとしたが、空叔父にとめられた。空叔父は僕に頭を振った。僕は入るのを諦めた。暫くしてから、唐お爺は長いベンチを2つ持って来た、叔父と大力おじは直ぐにすすみでてベンチを受け取った。その時、お店の奥の扉が開き、小さな女の子が両手に、三つの麺いりのお碗を乗せて、ゆっくり歩いて来た。女の子は14歳ぐらいだろうか。女の子はお碗をテーブルに置いて、またお店の中に入っていった。みんなはお碗の中の麺に注目している。それで僕も見たが、お碗の中には、麺とたっぷりのお肉が入っている、他には少量の唐辛子の皮だけ。でもみんなは見るだけで、誰もお箸を付けようとしない。女の子はまた3つのお碗を運んできて、無言で並べ、再びお店の中に入った。お爺は2つの大蒜をテーブルに投げて言った。「さあ!頂こう!」


 そして、みんなは腹が減った狼みたいに大きな口で食べ出した。僕もお腹が空いたし、初めてこんなにたっぷり肉が入った麺を食べる、肉汁が口の中で広がって、とっても美味いと。こんな砂漠の中で、こんなおいしい麺に出会うとは思いもしなかった。お爺を見ると、お爺は最近では珍しくいっぱい食べている。


「スープ頂戴!麺のスープ頂戴!ちょっと冷めたスープ頂戴!」叔父は汗だくで食べながら、唐お爺に声を掛けた。


唐お爺は杖を横の壁に置いて、一箱の「中華」ブランドのタバコをポケットから出し、一本に火を点けた。濁っている右目を細めながら、僕らを見ながら、ぽつりと言った。「麺をお代わりしたい人は手を挙げて!」


急に学校に戻った気がする、空叔父、叔父、大力おじ、花姉まで同時に手を挙げた。


唐お爺は笑った。「はは!お前らには足りないとは思っていたが」と言いながら、お店の中に向いて話した。「娘!こいつらにお代わりの麺をもってきてあげな!」


お店の中から「はい!」と聞こえた。そして、女の子は大きな桶を持ってきた、桶の中には麺とお肉でぎっしり。


みんなはいっぱい食べた後、叔父と大力おじはベンチで横になった。空叔父はあの犬と遊んでいる。花姉はサンタナの車に乗り込んだ、何をしているかは分からない。お爺はバックの中から一つの年玉袋を取りだし唐お爺に渡した。唐お爺は年玉袋を開けてチラッと見た。僕は横目でチラッと見た、どうやら2千元はありそうだ。2001年当時、2千元は大金だ。


「相棒!ここ数十年辛かっただろう!」お爺はタバコを消しながら言った。「足りなければ、もう少し渡せるぞ?」


 「はは。お前は来る度にそんなことを言っているな。儂はそんな大層な人物じゃないよ。」唐お爺はため息をつきながら言った。「儂は一生、このゴビ砂漠と付き合っていくつもりだ。ここは良いぞ。それに儂の側にはあの娘いる、離れられないんだよ。ゴビ砂漠がまだ儂を待っているとでも言うのか?おお!そうだ!お前ここに預けていった例の物。今回使うんだろう!儂はあんまり期待してない!ここのゴビ砂漠はいい文物が出た事がないな、怪しい文物はいっぱい出たけどな!相棒!お前今回は、自信があるんだな!孫まで連れて来たんだ!」


 お爺は僕をチラッと見て言った。「彼は18歳、まだ小さい、見聞を広めるためだよ。この子は落ち着いている、空より器がでかい、養と大力より強い!いつか外に出て、見聞を広げるのなら、早いうちにした方がいい!」


 唐お爺は言った。「そうだな!お前ら一休みしていきな!それから出発すればいい。夜までにゴビ砂漠に着ければ、明日には作業を開始できるだろう。」


 お爺は話した。「唐兄貴、今回、儂が戻る時に、娘さんの晶を連れて行こうか?子供は学校に行くべきだ。」


 唐お爺はまたため息をして言った。「女の子は大きくなったら親から離れるんだね!この子は頭が良くてな、まだ小さいのに、自分で勉強して、もう一人前になっている。儂はこの子を手離したくはないんだが!」


 お爺は言った。「兄貴の判断次第だよ!いつか娘さんが外に出てもいいと思ったら、儂に言ってくれたらいい、家の者にいってくれてもいい、どっちにしろこの老骨が手伝ってやれるだろう。じゃ儂は行くぞ!」


 お爺は空叔父をお店の後ろにある野菜を入れる穴蔵に荷物を取りに行かせた。僕がついていくと、中に別の洞天があることに気づいた。穴蔵は大きく、50平方メートルは優にある。その上床があり、テレビがあり、小さい仕切りもある。お爺はまっすぐに入って行って、私にレオタードの水着と、ガスマスクを私に渡した。「これはお前のおじの大力のものだから、お前が着るといい。熱から身を守ってくれる。」

 僕は納得いかなかった。ここは陸なのに、なんでレオタードの水着が必要になるんだ!よく見てもこのレオタードは一般的な作りだが、密封性だけは良さそうだった。お爺はこれを5つ持って、その他にも軍用シャベル、荒縄、懐中電灯、石油、フックそれと名前がわからない道具を持ち出した。


 穴蔵から出ると、すでに全員車に乗っており、外にはもう人がいなくなっていることに気づいた。地面を焼き尽くすほど太陽の光で、あの服が隣にあると火事になりそうな程だった。僕が装備を車に入れる時、空叔父は僕に「俺が先に点検する。」と言った。そしてガスマスクまで付けた。僕はそれを見ると宇宙人みたいだと思って笑った。空叔父はガスマスクの紐をきつく締めて、マイクロバスを発車させ、お爺の車に続いた。


 行く道会話は無く、水を多く飲んだ。僕は度々玉を出して手に取って眺めた。その時空叔父が「これは・・・とても大切にしなさい。非常に力が強いものだ!」と言った。

 僕が「うん。」と言うと、空叔父は続けて言った。「みん、よく覚えておきなさい。見るのはいいが、決してぶつけてはいけない。家族はみなお前を心配しているから、何かあったらお爺の車に行くんだぞ。」

 僕は「空叔父、地下のものはもう死んでいるから、何も起きないとお爺は言わなかった?」と言った。

 空叔父は「お前はわかっていない。何が起きるかわからないだ。」と言った。


 また沈黙が始まった。僕はお腹が膨れたら眠くなり、しばらくの間うとうとしていた。僕が目を開けた時すでに2時間走っていることに気づいた。周りの景色も一変し、目の前には果てしなくゴビ砂漠が広がっていた。僕は寝ぼけ眼にぼんやりしながら空叔父に「着いた?」と聞いた。

 空叔父は僕を見て一言「まだ!」と言った。


 僕は退屈していたので携帯を出したが、すでに電波が無いことに気づいた。その時、車が停まり、一人が道端で勢いよく小便をしだした。僕は少し恥ずかしかったので、少なくともお爺の車が見えないくらいに遠くへ行った。気持ちよく小便をしている時に、花姉が急にどこかから出てきた。僕は小便を危うく引っ込めそうになった。僕の顔は一気に赤くなり、ごまかすように言った。「あ!ごめん、気づかなかった!」

 花姉は笑って行ってしまった。僕のあの小便をしている時の気持ちよさは跡形もなく無くなった。車に戻る時心配していたが、やはりお爺が僕を呼んだ。こんなに早く告げ口することはないだろう?

 気が気でなくお爺の車に行くとお爺は言った。「儂の車に乗りなさい!」

 僕がドアを開けて前の座席に乗ると、ちょうど花姉に顔を見合わせた。花姉は私を見ると顔を赤くした。お爺それを見て言った。「誰が前に乗れと言った。後ろに行け!」

 僕は兎のように後ろに跳び乗るとお爺は「出発!」と言った。


 車は順調に走った。よくお爺を見ると、お爺は手にコンパスを持ちながら地図を見て、ぶつぶつ独り言を言って、「もうすぐ着くぞ。」と言った。

 僕は怖くて何も言えず、黙って座っていた。

 暫く経ってから、僕は勇気を振り絞って聞いた。「お爺!あの・・・あの唐お爺って誰?お爺と仲がいいの?」

 お爺は僕を見ずに言った。「唐、あいつは苦労人だ!以前は社会的地位があるやつだった。西部のデルタ地区のあの男が、西洋人に睨みを利かせるどころかかえってますます貧しくなった!」

僕は「え、なんで?唐お爺はお金持ちのはずじゃないの?」と言った。

お爺は「優しいやつだからな。40歳の時に通りの入り口で娘を拾ったんだ。娘は奇病を患っていて、夜になると咳を一晩中するんだ。どうしても原因が分からなくて、その年女を探して足を洗うつもりだった。ロシア人は唐に100万円渡して、南ウイグルのゴビ砂漠に行かせた。結局やつは、唐が盗んで売った石塚のことを言うんじゃないかと思って、口封じがしたかったんだ。ちょうどお前の空叔父はその年まだ子供で、唐の家で遊んでいて、無意識に南ウイグルに行くというのを聞いていて、帰ってきて儂に言ったんだ。唐は大きな墓を見つけて、口封じだとわかったんだ!唐の女房は酷い死にざまだった。生き埋めにされたんだ!儂らは唐を助けに行った時、唐の目に生気はなく、足はだらんと無気力な様子で、助けを求めたんだ。もともと唐が帰ったら二度と苦しめないと思っていたけど、ゴビ砂漠から行かないと(離れないと?)と駄々をこねるとは思っていなかった。これも愛情表現の一種だな!」


僕がぼうっとしてうなずくと、お爺は続けて言った「もし将来お前が来られるなら、毎回ゴビ砂漠に入って唐に会いに行くと覚えておいてくれ。唐は簡単じゃないんだ。もし唐がいなかったら、ひょっとしたら家の今の財産は無くなっていたかもしれなかったんだ!」

僕は急いで聞いた。「お爺、何が起きたの?」


お爺は濁った目で僕を見て言った。「儂らは唐のことを蛮人と呼んでいるんだ。あの時はまだ98年で、儂らは砂漠で墓を見つけ出し、2日間掘ってやっと穴の入り口を見つけ出た。これは墳陰だ!中にはなんと短剣や毒薬などがあった。もし年代が古いもので無かったら、あの時は沢山の人が入ったから、沢山の命を失うところだった。あの時は蛮人が連れてきたロシア人どもが先に入って、一人負傷して出てきたんだ。彼らは自分は痛い目を見たくないから、蛮人に5万渡して、先に入らせたんだ。儂は彼の軽率さを心配して、自分で先に入って行って、ロシア人はその後に続いた。あの穴を入って行くと中には錆びた兵器や腐った羊の皮だらけで、臭いがひどかったが、斬首刀だけはとても美しく、何百前のものなのに錆びていなかった。ロシア人が手に取ろうとした時、儂はものすごい勢いで叫んだが、三人のロシア人は石塚の下の短剣に刺されて死んだ。儂は運が悪かった、太ももを負傷した。蛮人は無理に儂を背負って塚を出て、何時間も走って、小さい病院に連れて行った。医者はあと少しでも遅かったら、出血多量で死んでいたと言った。当時を思い出すと、彼は本当に力があった。」


僕は唐お爺が当時どうして力が強かったのか分からなかった。今見ても僕より力がないように見える。僕はその刀にますます興味を持ち聞いた。「お爺、その刀は?」

 「あの刀は、蛮人が儂に渡した。儂が先に入ったから、儂に属するべきだと言ってくれた、それから成金が300万で買っていったよ!」


 物語は僕が想像していたように複雑ではなかったので、僕は満足できず、でも何を聞くべきかわからなかった。お爺は続けて言った。「今思うと、あの刀は安く売りすぎた。少なくとも1000万で売るべきだった。」

 僕が「なんで?」と聞くとお爺は「あの刀は100年錆びずに、穴の中は地下室だらけで、埋葬されている刀の大半は価値があると思われるもので、人に渡したくなかった。でも3人のロシア人の命と、私の余生で、300万の価値だった。あの300万が無かったら、今も儂たちは解放前のようだっただろう!」


 僕はあの刀の持ち主がどんな人なのか想像し始めた。無数の場面が頭の中に浮かんだ。あの刀の持ち主はあるいは非常に勇ましいかもしれない、あるいは敵を無数に殺しているかもしれない、あるいは一千の軍を指揮して城を攻めたかもしれない、でも何代も輪廻転生して、おそらく思いもよらず成金の手に落ちたのだろう。これもおそらく自然の摂理なのだ。」


 お爺は疲れたと言って、目を閉じて休んだ。僕は車の中で涼しい風に当たり、花姉を観察し始めた。彼女の腕の機械時計は太陽の光に反射して、始終僕の目を刺した。彼女の上半身は緑色のTシャツで、下半身は青色のジーンズを履いていたが、彼女の美しい身体は隠せていなかった。僕は段々夢中になって彼女はおそらく反射鏡で僕が彼女を見ているのを見て、軽く咳をした。僕はすぐに身体の向きを変えて、気まずそうに聞いた。「花姉、あとどれくらい?」

 花姉は髪を動かし「大体1時間だよ。どうしたの?座ってられない?」と言った。

 僕は「ううん。ちょっと聞いてみただけ。花姉、僕たちが行くところは危ない?」

と聞いた。

 花姉は数秒経った後でやっと「わからない。」と言った。どうやら私に答えたらしかった。


 僕は気まずくなって、窓にもたれて外を見始めた。僕が見た窓の夕焼けと果てしなく続くゴビ砂漠はとても美しかった。僕は煙草に火をつけ、頭を窓の外まで伸ばして、一口また一口と煙草を吸った。大体2時間近く経った時、車のスピードが速くなり、ゴビ砂漠を暴走するように走り始めた。この時やっとサンタルがガソリンを節約していたことに気づいた。あのマイクロバスは途中で2回ガソリンを入れた。ジープは途中で大力おじに何回も足で踏まれた。


 空が完全に黒くなり、車はくぼんでいるところに停車して、みんな車から降りた。僕は着いたのかと思って興奮したけど、お爺が「今晩はここで寝て、明日朝一で出発しよう!」と言った。


言い終わると車の中に潜り込んだまま出てこない。空叔父は僕をお爺の車に行かせなかった。僕はお爺が休んでいるのを邪魔しないためだと言った。僕は返事をしてマイクロバスの周りにいた。花姉は車のところで伸びをしていて、叔父と大力おじは近くに薪を探しに行き、空叔父は火を起こした後、人影が見えなくなった。僕は火のところに座って、風の中で食事をし、草の上で寝るのに気落ちした。これは僕がずっと望んでいたことだけど、この一面の砂嵐で僕は寝るべきか座るべきか。万が一トカゲが僕のところに来たら、一緒に寝るの?僕はこの様に野宿するのは安全ではないと思った。花姉が僕に瓶を渡して言った。「少し飲んで、暖かくしてね。お腹が減ったなら予備の箱に干した馬肉とナンがあるよ。」

 言いながら、ショートブーツから短刀を取り出して、石を探してきてゆっくりこすり始めた。僕は車に戻ってロングコートを出してきて、叔父と大力おじが帰ってきているのを見た。大力おじは薪を投げ置いて、僕に近づいて、悪意を持って言った。「おい、砂漠蛇を見たことがあるか?」

 私は「ないよ!」と言った。

 続けて大力おじは一塊の冷たいものを僕の首に投げた。よく見るとなんと蛇で、驚いて飛び上がった。花姉の後ろに隠れて、「蛇だ!早く払って!」

 大力おじは気を失いそうになるほど笑って、手を伸ばして蛇を捕まえて言った。「これはいいものだ!こいつ枯れ木の上にいて、夜に俺は宝を拾ったかのようだった。本当に儲かったな。」

 言いながら、彼は刀を取り切って、あの蛇はチャックのように腹を開かれた。彼は蛇の腹から黒いものを取り出して、刀の上に落とした。彼は宝を見たかのように寄せ集め、あのよくわからないものを口に入れ、酒を一口すすった。何回か咀嚼して飲み込んだ。

 これを見て僕はぞっとして、花姉に聞いた。「彼は・・・彼は何を食べたの?」

 花姉は僕を眺めて笑って「肝だよ。蛇の肝。食べると男性にはとてもいいものなんだ。」

 僕はむせ返った。突然、遠くから低かったり高かったりする狼の遠吠えが聞こえた。僕は立ち上がり、火に近づき、無意識に地面のたいまつを持ち上げていた。僕はたいまつを持っていると、狼の群れが近づいて来られないことを覚えていたのだ。大勢の笑い声が聞こえ、花姉が言った。「砂漠の狼は遠吠えを聞いた時は狼はまだ遠くにいるんだよ。狼が近くにいる時、吠えないんだ。あなたを食べたい時は、一般的には何匹かだから、安心して寝なよ。」

 「じゃあ万が一狼が勢いよく走って来たら、僕たちはみんなオオカミの餌になるんじゃないの?少し注意してれば、まあいっか!」僕は自分を無理やり納得させた。


 またみんなの笑い声が聞こえ、花姉がマイクロバスの後ろに行き、車から刀を引っ張り出してきた。これはカシュガル地区の刀で、ウイグル族が最も愛しているものだ。ウイグル族は女房はいなくてもいいが、この刀だけは絶対に必要だった。刀は0,5メートルあり、柄は黄銅でできていて、小さい宝石が散りばめられていた。火の光のもとで特に目を奪われた。花姉は僕にそれを渡して言った。「恐い時、この刀で身を守りなさい!」

 僕は刀を受け取って、うれしくなって、集中してじっくり刀を見た。このうれしさと言ったら、兵士が銃を得た時のようだった。この世界で僕にできないことは無いような気がした。この流線型の刀は血の気を湧き立たせる。僕は刀をつかんで天に向かって「狼はどこだ!?」と叫びたくなった。

遠くからまた狼の遠吠えが響き、僕はこの声を聞くと先ほどの威勢のよさが一気に吹っ飛んでしまった。


大力おじは鼻歌を口ずさんで、砂漠蛇を洗っていた。小指のような粗い棒を見つけると、皮を剥いだ蛇を巻きつけて、少し塩と唐辛子、クミンをかけ焼き始めた。度々酒を口に含み、焼いている蛇に吹きかけた。すると間もなく蛇の肉のいい香りが鼻孔をくすぐり、きつね色に焼けた様子に僕は完全に目を奪われた。大力おじは僕がうっとり蛇の肉を見つめていることに気づき言った。「みん、何を使って焼くと一番美味しくなるかしっているか?」

僕は言った。「火を使って焼く!」

彼はとても蔑んだ目で僕を見て、「それはわかっている!俺の言っているのは何の材料を使って焼くと一番美味しくなるかだ。」

僕は「わからない。」と言った。

彼はまたとても蔑んだ目で僕を見て「梭梭柴を使うんだ。今お前の大力おじが使っているやつだ!これを使うと一番美味しく焼ける!」

僕が何も言わないのを見て、彼はまた続けて蛇を焼いた。しばらくして、僕に半分渡して「熱いうちに食べな。魚と同じように骨があるから気を付けて!」と言った。

僕は注意しながら一口咬むと、香ばしさと強烈な調味料の香りが口いっぱいに広がり、口に入れた時のしっかりとした肉感と、きつね色の焦げ目の下にある白くてみずみずしい肉が食欲を増幅させた。叔父が近づいてきて、ナンを持って火で焼き始めた。時々塩と唐辛子を振りかけた。僕が蛇の肉を食べ終えると、叔父は僕に熱々のナンを半分渡して「早く食べな!食べたら早く寝た方がいい。」と言った。


僕はナンをもらって、美味しそうなきつね色に焼けているのを見た。僕は酒を手に取り一口すすり、大きく口を開けナンを食べた。叔父はまた干し馬肉を僕に渡して言った。「今日お前はこの肉とナンを全部食べなさい。そうしないと明日身体がもたない。」

僕は「安心して。もう僕は大きくなったから食べられるよ!そうだ!叔父、空叔父は?夜になって空叔父を見てないけど。」と言った。

彼は「夜回りに行ったんだ!俺たちは3時間交代なんだ。食べ終わったら早く寝なさい!」と言った。


僕は「叔父、僕・・・僕はどこで寝ればいいの?」と言った。

叔父は宇宙人でも見たかのように「夜中は冷えるから車の中には行くなよ。火のところで寝ればいい。下に何枚か洋服を敷くと寝心地が良くなる。家のようにはいかないがな!」

僕は心の中で地面を何度も罵ったが、口では「大丈夫!どこでも大丈夫だ!」と言った。

叔父は僕に軍用コートを渡して、僕はそれを地面に敷いた。するとまた軽蔑した視線を僕に向け言った。これは掛布団としてお前に渡したんだ。敷布団ではない。

僕は無理やり横になったが、火がぱちぱちと燃える音にとても苛立ち、遠くから狼の遠吠えも響き、近くで蛇を半分食べたこともあり、眠れるはずも無かった。

車から持ってきた発泡スチロールの板を地面に引いて、僕はその上に横になった。たき火を見ながら今日起こった全てのことを考えた。以前の生活とは完全に違っていた。叔父はすでにいびきをかき始め、大力おじは大の字になってよだれを流していた。花姉の寝姿はとても美しく、大きな石に頭を預け、身体の軍用コートをギュッとして、たき火のもとでさえ、彼女がスースーと呼吸をする様子が見て取れた。最も苦労しているのは僕で、何度も寝返りを打つので、ずっと発泡スチロールの板から音が鳴って、眠れなかった。僕が羊を数えようとした正にその時、空叔父が来てたき火にいくつか薪を入れた。僕はすぐ立ち上がって、小さい声で呼んだ。「空叔父!空叔父!」

空叔父は近づいて来て、僕は「どこに行っていたの?ご飯を食べるのを見なかったけど?」と聞いた。

彼は笑って「俺は近くにいて、お前が蛇を食べるのを見たよ。ははは!俺が初めて蛇を見た時も驚いたものだ!大丈夫だ、早く寝なさい!」と言った。

 僕は彼が背中に銃を背負っているのを見つけ、かっこいいと思い、手を伸ばして触ろうとした。すると空叔父は僕の腕をつかんで言った。「暴発するから危ないぞ!」

 僕は興味がわき思い切って立ち上がり言った。「空叔父、僕に夜回りをさせてよ!」

 空叔父は「今日はダメだ。明日も道を急ぐ。素晴らしいものを見逃しても俺の責任じゃないからな!」と言った。

 僕の関心は全部銃に向いていて、「空叔父、この銃は何て言うの?どこから手に入れたの?」と聞いた。

 彼は「これはAK-47と言って、ロシア人が好きなやつだ。」と言った。

 僕は「いじってみてもいい?」と聞いた。

 空叔父は銃をしっかり背負い「どの家でも子供はこれで遊んではいけない。早く寝なさい。」と言い、指先で僕をちょっと押して、僕に軍用コートをかぶせて、身をひるがえし夜の闇に消えて行った。

 僕はがっかりして横になり、いつの間にか知らず知らずに夢の中にいた。

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