大人の色香漂うヒューマンドラマです。登場人物は会社の同僚で複数名おりますが、冒頭のわずかな会話に社内での彼等の様子が表れています。さりげない事ですが、こういう風に作中における人物同士の空気が分かると(解釈の正誤は問わず)彼等に親近感がわき、その後の成り行きも気になります。
文字数は少なめなうえ、彼等にはすでに背景があり、関係は出来上がりつつあります。しかし、しっかりと流れる文章のため、読者は置いていかれずに一つずつ拾いながら読むことができます。それだけ無駄を省き丁寧に書き込まれています。また、この後踏み込む本筋によりレビュータイトルを付けました。
本作の主は恋愛です。見所はいくつかありますが、私はアプローチの道中に詰まっているものをあげます。恋心だけではない複雑な想いが綴られており、作中で明言されていない事にまで読者の想像は広がります。同時に、文字のみでの表現を強いられる小説の素晴らしさを感じることが出来ました。
大筋は恋愛ですが、それ以外も見所はあり、他の人物たちにも細かく焦点を当て、それぞれの絡み合いも興味をそそられる内容になっています。彼等の存在があることで、小さな世界で群像劇のような広がりを持たせているのだと思いました。
また、冒頭の書き分けの話に繋がりますが、会話がすごくリアルです。年相応というより立場相応の方が合っていると思いますが。これは作者様が普段からよく他人を見ているのかな、と感じました。仮に想像だったとするなら尚のこと尊敬できます。外連味にない会話文は素直に読者に届きます。
最後になりますが、この場では明らかにできない内容がたくさんありました。
ですので、ぜひとも直に読んでもらいたいと思います。手に取った時間に後悔はありません。