第12話返り討ち

「火付け盗賊改め方長官、建部荒次郎である。

 逆らう者は問答無用で斬る。

 神妙にいたせ」


「ちぃい。

 しゃらくせぇ。

 皆殺しにしちまえ!」


 火付け盗賊にとっては、飛んで火にいる夏の虫だった。

 準備万端整えた所に、のこのこと地獄の鬼太郎がやってきた。

 だがそれは、あくまで火付け盗賊改めからの見方でしかない。

 火付け盗賊改めには与力同心あわせて五十人いるが、その全てをこの捕物に投入できるわけではなく、普通の捕り物では与力一騎に同心三人、与力の配下が槍持ち一人、草履取一人、若党二人、同心が小者と称する岡っ引きの親分一人と、子分の下っぴき七人ほどだ。


 同心は刃引きの長脇差か十手を使う。

 親分と子分は十手を持ってはいるが、実際の捕物に使うのは、専門の捕物道具は突棒、刺股、袖搦だ。


 突棒は先端が鉄製でT字型になっていて、T字部分に多数の歯があり、突くだけでなく袖をからめることができる。


 刺股は先端がU字型の金具がつき、U字の先で犯人の脛を突きなじり倒し、U字の股のところで首を押えた。


 刺股は現代でも防犯用として改良され、国や地方で使われてることがある。

 袖搦は先端が矢羽根のよう二股になっていて、二股部分に多数の釘が埋め込まれていて、袖をからめて捕える。 


 どうしても苦戦する時は、砂や灰など目潰しを用いることもある。

 今回は腕利きの元武士や浪人五十人以上だから、長官自らが出馬し、与力四騎同心二十人、親分子分百六十人が動員された。

 四倍近い人数で圧倒しようとしたものの、そうはいかなかった。


 地獄の鬼太郎一味は一人一人が一騎当千の剣客だった。

 全員が人を殺した事のある者ばかりだった。

 それも一人二人ではなく、十人以上の人間を殺した事のあるモノ達だった。

 人殺しに全く躊躇わない者達ばかりだった。

 所々で囲みを破られ、大木戸を突破されてしまった。


 特に地獄の鬼太郎と幹部達の暴れようは鬼人のようだった。

 間合いが遠く有利なはずの捕物道具を使っている親分子分が、次々と斬る捨てられ、同心も刃引きの長脇差や十手では抵抗できず、真剣を抜いて斬り捨てようとするも、それでも返り討ちされる同心がいた。

 馬上の与力が槍で助太刀するも、与力まで手傷を負う状態となった。


 遂に札差大和屋与兵衛も護衛までもが戦う事になった。

 逃げた地獄の鬼太郎につけ狙われる危険を排除したかったからだ。

 大和屋与兵衛だけならば護衛で何とかなるが、息子や娘を狙われると護りきれないかもしれないと、大和屋与兵衛が心配したからだ。

 勝敗の行方は混沌とした。

 

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