第13話決着

「親分、ここは俺達が何とかする。

 親分は船で逃げてくれ」


「気にするな。

 あいつさえ殺せば何とかなる」


 鬼太郎は迂闊に近づいてきた捕り方を斬り殺すと、囲みに穴ができた。

 その穴に飛び込んで、建部荒次郎の首を狙った。

 いや、殺せなくてもいいのだ。

 手傷を負わせることができれば、火付け盗賊改は捕り物どころではなくなる。

 鬼太郎は邪魔になる小者三人を立て続けに斬り捨てた。


 もはや馬上の建部荒次郎と鬼太郎の間には誰もいない。

 だが馬上の建部荒次郎の方が圧倒的に有利だ。

 普通ならば馬上で槍を持つ建部荒次郎に、徒士の鬼太郎が勝てるはずがない。

 間合いが全く違う。


 だが人殺しに慣れた鬼太郎には秘策があった。

 頭の中で何度も火付け盗賊改や町奉行所と戦う事を想定していた。

 地を這うように建部荒次郎に近づいた鬼太郎は、最初に手綱を斬った。

 返す刀で馬の脛を断ち斬るという、信じられない剣技を見せた。


 右前脚を断ち斬られた馬は、あまりの痛みに後ろ足で棹立ちになった。

 手綱を斬られて不安定になっていた建部荒次郎は、馬が棹立ちになった事で馬上から投げ出されてしまった。

 激しく放り出された建部荒次郎は、身動きが取れないほど身体を強打した。

 鬼太郎は止めを刺そうとした。


 だがそこに、常に鬼太郎を警戒していた黒鉄長太郎が割って入った。

 だが黒鉄長太郎の腕では、鬼太郎を斬る事も止める事も不可能だ。

 剣技が圧倒的に違う。

 だが黒鉄長太郎には備えがあった。

 小者の猿の音三郎達に大量の目潰しを用意させていたのだ。


 剣の間合いの外から、次々と目潰しが投げつけられ、鬼太郎も辟易して、止めを刺すより逃げることを優先しようとした。

 だが鬼太郎を逃がしたくない大和屋与兵衛が、店の護衛の大半を戦いに参加させ、絶対に鬼太郎を逃がさないようにした。

 対談方でもある護衛が死傷すると、これからの商売に大きな影響があるが、鬼太郎を逃がす方が危険だと考えていた。


 しかし鬼太郎も勝負勘が鋭い男だ。

 大和屋与兵衛の周りから護衛が減ったのを見て、大和屋与兵衛を斬ろうとした。

 鬼太郎の手の中には、大和屋与兵衛の次男峯次郎がいる。

 峯次郎を使えば、再度の押し込みがたやすくなる。

 いや、押し込まなくても身代が手に入るかもしれない。


 鬼太郎の遣り口を熟知している古参幹部が、鬼太郎と行動を共にした。

 残っていた護衛を引き受けて、鬼太郎が大和屋与兵衛を切れるようにした。

 だが、大和屋与兵衛と多少のかかわりがある黒鉄長太郎が、身を挺して庇った。

 鉄片で補強した肩で鬼太郎の剣を受けたが、鎖骨を砕かれてしまった。

 だがその甲斐はあった。

 身の軽い猿の音三郎が、黒鉄長太郎を斬るためにほんの少し隙ができた所を、音もたてずに背後を襲い、心臓を一突きした。

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