第7話地獄の鬼太郎

 地獄の鬼太郎は盗賊の世界でも恐れられている男だった。

 自ら地獄の鬼を名乗るくらいだから、盗みの三ヶ条など全く守らない。

 殺し、犯し、貧しい相手からも奪い取る。

 本格の盗賊からは忌み嫌われている。


 いや、それだけではない。

 同じ盗賊仲間すら襲うのだ。

 盗み先がかち合ったからではなく、奪われても訴えられないからだ。

 しかも証拠を残さないように皆殺しにする。

 皆殺しにできるだけの腕がある。


 盗賊仲間でも、いや、同じ一味でも鬼太郎の前歴を知る者は少ない。

 だが一つだけはっきりしている事がある。

 恐ろしいほどの剣術使いだという事だ。

 本気で望めば、剣客として名声を得る事もできたであろうほどの腕前だ。


 だからかもしれないが、仲間には元武士や浪人が多い。

 それもそれなりに剣の腕がある者が多い。

 最初から盗み先を皆殺しにすることが前提の盗賊団だ。

 手早く殺すために、殺人の技を極めている者が多い。

 まあ、引き込みや錠前破りが必要な場合もあるが、雨戸の錠を鋸で切り、主人の手足の指を斬り落として脅し、金蔵を開けさせるのなら、それほどの名人達人は必要ないのだ。


 そんな地獄の鬼太郎が次に狙っていたのが、蔵前の札差大和屋与兵衛だった。

 江戸一番といわれる札差が相手だ。

 最低でも五十万両、いや三百万両は見込める相手だ。

 仲間を引き締めなければいけない。

 そこで小頭の壬生の捨弥を有明楼の呼び出していた。


「どうやらただの仲居だったようだな」


「さようで」


「さて、お前はどう考える。

 今までの人数でやれると思うか」


「五十人が集まれば、たいがいの事が可能ですが、用心棒の数も質も段違いだと思われますし、千両箱を運ぶのも大変ですぜ」


「千両箱は船を使う。

 三百万両あれば千両箱で三千箱だからな。

 もっとも三百両の資産とはいえ、店にある小判は五十万両くらいだろう。

 船を二十艘は用意したいな」


「はい。

 すでに準備を進めています」


「問題は用心棒だな。

 何人いるか、どれくらいの腕前かを知りたいが、下手に探りを入れて勘づかれても困る、何かいい方法はあるか?」


「それがありますんで」


「ほう、なんだ」


「大和屋与兵衛の次男峯次郎が放蕩者のようで。

 吉原や賭場に出入りしていると聞いています」


「ほう、それは面白いな。

 だが慎重にやれよ。

 今回は一世一代の大仕事だ。

 失敗どころか途中で中止するわけにもいかん」


「分かっております。

 何としてでも万全の用意をします」


「俺も見込みのある者を探す。

 俺が見てこれという剣客を仲間に引き入れよう」

 

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