第13話 重み

キーンコーンカーンコーン


高校でのその日最後の授業が終了する


「あー、終わった~」


前田が椅子に座りながら、両腕を上に上げて伸びをする


さてと、今日はどうするかな?


家で自習するため、机の中の教科書をカバンの中に入れながら今日の夕食を考える


やっぱり鶏ガラの残りを使って何か作ろうかな


「石神、帰ろうぜ」


そう考えていると右から前田の声が聞こえる


「そうだな、そろそろ帰るか」


教科書をカバンに詰め終わり出口に足を向ける


二人で出口に向かうと今朝と同じような掛け声が後ろの席から聞こえる


「じゃあねスミスさん。また明日お話ししましょう」

「色々話してくれてありがとうね」


クラスの女子たちが皆の人気者であるアイス・スミスに話かけている


「はい!また明日よろしくお願いします!」


明日の会話が楽しみなのか、生き生きと返事をする


「じゃあねスミスさん」

「また明日」


石神と前田も帰りの挨拶をする


「はい!」


二人が教室から出て昇降口へと向かう




すれ違いで、ある少女が教室の前へと立つ


赤い眼鏡をかけて、立っているおさげの子は石神達と違って赤色のリボンを付けている一つ下の学年に所属している


「先輩」


その声は水城へと届けられた


声に聞き覚えがある水城はその方向に振り向いた


「うん。今行くね」




玄関にて石神達は靴を並べる


ラーメン美味かったな~などと考えながら、窓越しに外から見える夕日を見つめる


そしてもう一方は首に下げている石を握り何かを考えている


「さて、行くか」

「ああ、訓練所まで送ってくよ」

「ありがとう、だがまだ中には入れられないぞ?」


夕日に向かいながら首だけを横に向いて話す


「分かってるよ、それはまだ仕方ない」


二人は横に並んで駅に歩いていく


胸の内にしまっておこうと思ってはいたが、やはり気になる…何故アイスさんはあんなにも言葉が滑らかなんだ?


やっぱり前田に相談してみるか、あんまり気が進まないんだけどなぁ


何だか知らないけどとても嫌な予感がするし…


「な、なぁ、ちょっと聞きたいことがあってさ」

「ん?何だ?」


不安そうな声をして、下を向きながら聞いてみる


「今日お前もスミスさんの会話を聞いたよな?」

「そうだな。あんだけ喋ってたり、皆の前で泣いたりもしたんだから」


両腕を頭の後ろに組み、紅く染まっている空を見上げながら前田は返答した


「俺、実はもう既に会ってるんだ。スミスさんに」

「え?てことは今日以前にってこと?」

「そうなんだよ。昨日会って今日再会した」

「へ?」


前田は立ち止まってこちらを見たと思いきや、すぐさま早歩きをして肩を並べる


いきなり止まってこっちを見てきてびっくりするじゃないか


「なんだ?いきなり」

「あーいや、その… 羨ましいと思ってな」

「なんだそんな事か」


くだらないな、1日早く会ったからといってどうだというんだ


「そんな事?そんな事はないだろ? いいよな~ちょっと早めのお友達なんて羨ましいわ」

「そうか?まあいいやとりあえず続けるよ」


ため息交じりの話し方で本題に入る


「で、俺が初めてスミスさんと会話した時はあの人カタコトだったんだよ。丁度日本語覚えたての外人さんみたいなイメージで」

「へぇ、そうなのか。でそれが話か?」

「いやそうじゃないんだ。おかしいと思わないか?なんで覚えたての日本語を話す人間が翌日にはペラペラなんだよ」

「確かに、そう聞くとおかしいな」


どうやらその考えを持つのは俺だけではないらしい、同じ考えの人がいて少しホッとした


「よかった、とりあえずこの件に関しては警戒しておこう。違和感がすごいからな」

「そうだな、俺も警戒しておく」




二人が基地の門の目の前に到着する


「さてと俺はこれで、また明日な」

「ああ、しっかりやれよ!見学の話忘れるなよ?」


前田がグッドをしながら見送る




バイトメトリクス認証をして中に入り警備の人と挨拶をする


「新入り訓練か?早く戦力になってくれよ?期待してるんだから」

「はい、頑張ります!」


普通そうな会話に見えるけど、高校生に自衛隊員が期待するってどうよ


心の中でモヤモヤとした気持ちを持って、石神は訓練場へと足を運ぶ


夕方なのか、すれ違い様に門に向かう自衛隊員を見る


それを見ながら石神はこう思った


確かにあんなふざけた力の前じゃ自衛隊員でも無力か…


それなら力を持つ者に頼るってのも仕方のないことなのかな


「さてと、着いた」


石神は訓練場の入り口に着いた


中に入ると鴨山が既に訓練をしている


ドアの開閉音に気づいたのか鴨山はこちらを見る


「やはり来たか石神、波動ですぐわかったぞ」

「やっぱりこれでばれちゃうものなんですね」


鴨山の方へ歩きながら話す


「敵からしたら絶好の的になるな、まあ強すぎるから手を出してこないという考え方もできるがな。こちらとしても見つけやすいしまあ±0だな」

「かくれんぼとかしたら秒で負けますね」

「よし、荷物を置いてこい。また訓練に励もう」


準備されている竹刀を取り出し両手で持つ


「フンッ!ハァ!」


全身に力を込めて全力で竹刀を燃やす


だが力が強すぎたせいか、竹刀は一気に手の元まで燃えてしまう


「やば!」


咄嗟に竹刀から手を放し後ろにステップを踏む


「あーあ、力みすぎちゃった」

「どうした?威力が上がっているのは良いけどそれじゃ危ないぞ」


鴨山は焦げた竹刀を見て驚いている


「何かあったのか?」


石神に近づいて新しい竹刀を渡す


「すみません、さっき自衛隊の人たちを見ていたら敵に対抗するには俺がやらなきゃいけないんだって気持ちになって。それで力んじゃって」


竹刀を両手で持ちながらうつむく


「なるほど、使命感や責任感に囚われたというところか」

「はい…」


石神の顔こそは見えないが落ち込みようは体でとてもよく伝わってくる


鴨山は何かが吹っ切れたように頭の中で考えをまとめた


「仕方ない今日の練習はやめだ。石神竹刀を片付けてくれ」

「はい?でもまだ始まったばかりですよ?」


ようやく石神が顔を上げて答える


「いや、いいんだとにかく今日はやめだ」

「は、はい」


石神が竹刀を片付け終わり鴨山が待っている出口に急ぐ


一体何なんだ?俺はもっと強くならないといけないのに


「片付け終わりました」

「よし、では付いてこい」

「はい」


二人が歩いた先は食堂だった


「あの鴨山さん」

「まあとにかく座れ」


そういわれると目の前にあるテーブル付きの椅子に腰かけた


「お前今落ち着きが無いだろ?」

「まあ色々なことがあったので」


鴨山は石神に背を向けて食堂の中にある自販機で飲み物を買っている


「ほれっ」

掛け声とともに石神に向け飲み物が投げられた

「おわっ」


「落ち着いてないながらもナイスキャッチ、俺の奢りだ」

「これくらいならなんとか。いただきます」


ホットコーヒーか、温かいな。春なら飲めない時期でもないしおいしくいただこう


「石神、前に言ったよな?戦う上で大事なのは落ち着くことだと」

「はい」

「はっきり言って早いんだよ落ち込むのが、こういうのはまず戦ってからだろ?今はまだ戦ってすらいない、いわば研修中の身だ。落ち着いていなければお前の心の蛇口は壊れる一方だ、周りを巻き込みかねん」

「すみません…」


みるみる落ち込んでしまう石神


「うっ… とにかく俺の言いたいことは気持ちを安定させろ。それともう一つ言いたい」

「何でしょうか?」


「お前全部一人で背負おうとしていないか?」


その言葉を聞いたとたん石神はピクンと動いた


そうだよな、俺はまだ入ったばかりの新人なんだし。

こんなこと言ってたら皆さんの気を悪くさせてしまう


「さっき言ってたよな?俺がやらなきゃって、何か勘違いしてないか?俺らだって力にはなれるんだぞ?むしろ最初は俺らが戦力だ、それをお前は」


鴨山が話し中に突然椅子の足が引きずられる音がした


その正体は目の前に立っている石神の姿だった


「ど、どうした?」

「すみませんでした!」

深く頭を下げる石神


「まだこれからだってのにこんなに追い詰められてしまって、迷惑もかけてしまって…」

「まあ分かってくれればそれでいい、落ち込むなら戦ってから落ち込んでくれ。その時にはまた俺が鼓舞しよう」

「はい!」


決意を表してからすぐさま、基地内には出撃用のサイレンが鳴った

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自然者達の力 鶴闇 @Tsuruyami

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