第12話 転校生が来た!

は~昨日はとても楽しかったな~


昨日の出来事を思い出してニコニコしながら石神は通学路を歩いている

その足取りは軽やかであり、腕を元気よく振っている


日曜日だから混んではいたが狙ってた圧力鍋を買えたし、それを使って鶏ガラを煮込んで鶏ガララーメンも作れたし、とても充実した一日だった


残り汁を使って何を作ろうかと思っていたら後ろからいつもの声が聞こえた


「おはよう!今日も一日頑張ろう!」

「そうだな!頑張ろう!」

「おいおい、やけにキャラ変わってるな、もしやお前昨日何か料理したな?しかも大成功」


さすがは我が親友である。俺のちょっとした変化にもすぐ気づくのだから

俺達の絆の深さを広めたいくらいだ


「そうなんだよ!圧力鍋を買ってラーメン作ったんだけどこれがまた美味くてさ!大成功中の大成功だったから今度お前にもごちそうするよ」

「そりゃ楽しみだ。お前料理に関してはすぐ顔に出るからな一発でわかったよ」


お互いはあの日の事を忘れたように楽しく話す

だがそんなことはなかった。あの日に関係のある話はすぐさま前田の口から解き放たれた


「今日も力の練習なのか?」

「うーん。そうかな~行こうとは思っているけど」

「それさ俺も付いていってもいいか?」

「それはどうだろう、聞いてみないと分からないよ。第一お前は関係ないだろ?襲われたっちゃ襲われたけどそれで終わりなんだから」

「確かにそうなんだけど」


横にうつむきながら話す前田に少し疑問を覚える


「とりあえず上の人に聞いてみるよ、見学していいか」

「ありがとう」

「まあ完全に無関係ってわけじゃ無いからな」


どうしていきなりあんなことを言ったんだ?まあ別に気にする必要は無いか


さて、今日も授業だがちゃちゃっと終わらせて家帰って鶏ガラを使ってまた料理するか


いつもの鐘が鳴りホームルームが始まる


「おはよう。さあ開始早々だけど、転校生を紹介するよ」


教室中がざわざわしはじめて男子?女子?という声が飛び交う


それに呼応するかのように担任が答える


「えー転校生は女子だね」


その後間もなく「よしっ!」や「やった!」など男子の声が所々聞こえる


「さて女子だと、良かったな!」


右隣の前田が囁いてくる


「別になんだっていいさ、何に影響するわけでもないし」


右ひじをつきながらそっぽを向いて空を見上げる


「男子って本当そういうの好きよね」


腕を組んでいる水城が後ろで言い放つ


「少なくとも俺は違う」

後ろを振り向くまでもなく即答する


「フンッ、どうだか」


今日も水城は機嫌が悪いようだ、なんで怒ってるんだ?


前の時と同様気まずい空気が流れる


「まあ何はともあれ仲良くやらないと、二人とも笑顔だぞ!」


「さあ入ってきてくれ」


担任の掛け声とともに教室のドアが開かれる


気になったのか、そっぽを向いている石神が横目で転校生を見る


転校生ったって別にそこまで珍しい事じゃないんじゃ、てあれ?あの子は


入ってきてから転校生は黒板の前に行き自分の名前を黒板に書いてから生徒たちの方向を向いた


あれ?もしかして


驚いたため石神は体全体を向けてしまう


「は、初めましてイギリスから転校してきた【アイス・スミス】です。皆さんよろしくお願いします」


やっぱりだ、あの子はこの間俺とぶつかった子だ


「アイスですって、素敵な名前」や「なんてロマンチックなんだ」と色々な賞賛の声を受け、転校生の壁となる初めての自己紹介は大成功という名のドリルで壁を破壊した


相変わらず綺麗な銀髪で水色の目、そして極めつけの氷の髪飾りはアイスの可愛さをより一層引き立てている


「いいんじゃないの?悪くないよ、盛り上がってきたぜ」


俺にもワンチャン!というような顔と勢いで話しかけてくる


「ん?ああ、綺麗な子だよ」


どうやら他の男子たちもアイスに魅了されているようだ


すると突然アイスが涙目になった


いきなりのことなので、先生を含めクラス全員がオドオドする


「えーと、スミスさんどうしたの?」

「すみません。何に関しても褒められたことが無いので嬉しくって」

徐々に目の腫れが広がっていく


「そうだったのね。このクラス全員、いや学校全員があなたを歓迎するわ」

「ありがとうございます」

両手で顔を隠しながらお礼を言う


それに釣られたのか、クラスの生徒達も目が潤んでくる


「皆さん!来たばかりでまだ右も左も分からないのでこれから色々とよろしくお願いします」


そういうと頭を深く下げてお辞儀をする


「みんなの代表として言うわ、こちらこそよろしくねスミスさん。じゃあスミスさんの席は」

「はい!はい!ここが空いてますよ!」


そう声をかけた人物は意外にも水城であった


まるで遊園地ではしゃぐ子供のようにアイスを引き寄せようとする


どうやら機嫌が直ったようだ


「私の後ろの席が空いてますよ!」

「そうね、ならスミスさんあそこに座ってくれるかしら」

「はい」


ふと石神の頭の中に疑問が浮かんだ。が、その疑問は明確には出来ない違和感として残っている


何かが違う…と、その違和感に気づけなかった


だが違和感はすぐに明確な疑問へと変わっていく


「失礼します。よろしくお願いします。ええと」

「水城よ。それにしてもスミスさんて日本語が上手なのね」

「いえ私なんてまだまだです」


水城の真後ろに座ったアイスは楽しそうに会話をしている


ん?そうか、この違和感の正体はペラペラ日本語を話せるスミスさんの話し方だ


確か初めて会った時のスミスさんはもっとカタコトだったはず、それなのになんであんなに滑らかなんだ


「では水城さんこれからよろしくお願いします」

「花蓮て呼んでほしいな、私もアイスって呼びたいし」

「分かりました。花蓮」


意外と人気が高い水城×綺麗なイギリス転校生のせいか人気が高いアイス


百合が好きじゃない男子でもとても良いシチュエーションではあると思うが、その時間もすぐに終わってしまう


「さてホームルームはこれで終了だから授業の準備をしなさい」

「「「はーい」」」


そういうと担任は教室を出ていく


みな担任の合図と同時に1限目の準備をする


「昼休みお話ししようねスミスさん」

「スミスさん色々話聞かせてよ」


男女混合で話が混じり合う


「はい、楽しみにしています」


ほほえましい顔で返事をする


「人気者だなスミスさんは」

「そうだな」

「なんか元気無いぞ?元気出せ」

「元気はあるさ」


とも言いながらやはり元気は無く、そっけないそぶりで目を逸らす


石神はこう思っていた。俺とあった時は喋りが上手くなかったのに、何故あんなにも喋れるようになっているんだ?そんな数日で上達するものなのか?


疑問に疑問を重ねていくうちに自分でもキリが無いと感じたため、この話は自分の胸の内にしまっておくことにした


「さて、1限目に向けて準備しよう」




「よし、今日の授業はここまで」

「起立!」

「「「ありがとうございました」」」


号令の後、一斉に生徒全員の挨拶が飛び交う


挨拶が終わってからすぐ、朝の約束通り男女が混合してアイスの元へ向かっていく


「「スミスさん!」」

男女が自分のパンや弁当を持ってアイスに駆け寄る


「はい!私も待ってましたよ!皆でお話ししましょう」


今朝の涙は元気に飛んでいき今は朗らかとしている


クラス全員。とまではいかないがかなりの生徒がアイスの周りを囲んでいる




「にしてもすげえ人気だよな。俺らの席占拠されちまったし」

「まあ仕方無いさ。誰しも転校生が珍しいと思えば話をしたがるさ」

「そして俺たちはここまで来るのを余儀なくされた…と」

「別にここまで来なくても良かったんじゃ」

「まあ仕方ないさ」


今二人がいる場所は学校の屋上でベンチに座りながら昼飯を食っている


石神は自分で作った海苔弁当、前田は購買のジャムパン


どこにでもありそうな普通のメニューだ


「そういや力ってのは今でも感じ取ることができるのか?」

「ん?まあ感じ取れるよ。複数個いるね、かなり微弱だけど」

「へえ、微弱?」

「多分距離が遠すぎるんだと思う」

「あーそれでか」

「何分全員が基地にいるってわけでもないしね」

「なるほど」


どうしたんだ?いきなり聞いてきて


誰に対しての警戒心がまだ解けていないのか、疑問の顔をしながら前田を睨み付けている


「ん?ああそんなに怖い顔するな、単純に聞きたかっただけだよ。深い理由は無い」

「そうか、ならいいんだけど。すまん」

「さて飯も食い終わったし、午後もちゃちゃっと済ませるか」


二人が足を揃えて教室へと向かう


「うへぇ、まだやってるよ」

「でも席は空いたな」


二人がそれぞれの席へ座る


「今朝も言ったが今日は訓練に行くつもりなんだよな?」

「ああ、そのつもr ん?」


何か視線が…スミスさん?


前田の訓練という言葉が気になったのか、はたまた俺たちの姿が気になったのかその真意は分からないが、俺たちに向けられた目は見開かれている


「ん?どうした?」


前田が石神に気づき石神と同じ右の方向を向く


二人は驚く、というより不気味に思ってしまった

あの綺麗で可愛い子が今ではずっとこちらを凝視しているからだ

まるで蛇に睨まれた蛙のように二人は数秒動けなかった

周りから話しかけられているというのにそれもお構い無しだ


「スミスさん?」

話に参加している生徒の内の一人が、顔を覗きこみ髪を揺らす


「え?いえなんでもないですよ、どんなお話しでしたっけ」


アイス達はすぐさま皆に笑顔を見せて会話に溶け込む


「何だったんだ?今の」

「うん、正直少し怖かった」


二人をしり目にアイスは昼休みが終わるまで笑顔を絶やさなかった

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