第11話 知らぬが仏

ただいまー


石神の声が家の中で響きお帰りと母親の声が呼応する


とてもいい匂いだこれは揚げ物かな?まさかとは思うけど…


すぐさま自分の部屋に入り鞄を置いてリビングへ向かう


「遅かったわね」

「あー学校が終わった後も少し勉強してたからね」

息を吸うように親に対して嘘をつくのはあまりいい気分ではない

「そう。もうすぐご飯だから席に座りなさい」

そういわれると入口から自分の席へ座る

「父さんは?」

「仕事が長引くみたいで帰りは遅くなるそうよ」

「ふーん」

なにげない会話をしていると石神の前に揚げ物の乗った大きな皿が置かれる


いい匂いのする正体はなんと唐揚げであった


おお、まさかの唐揚げか

驚いて身を引いてしまう


「ん?あんたの大好物な唐揚げよ?」

「大好きだよ。ただ今日昼ごはん唐揚げだったんだ」

「あら、そうなの?ごめんね~」

「いや好きだから大丈夫だよ」


母がいつも座っている席へ着く


「「いただきます」」


二人が手を合わせ食事を始める


「そういえばあんた進路は結局どうするつもりなの?やっぱり自分がやりたいっていう調理学校?それとも就職?」

母が自分のコップと俺のコップに麦茶を入れている

「もう決めたよ。調理学校に入る」

「そう。ならその準備をしなきゃね、父さんが言ってたわよ調理学校に入るための資金はちゃんとあるから心配するなってね。お母さんも反対する理由は無いし」

「そっか、ありがとう。」

水滴が付いているコップを持ち、にやけ顔が恥ずかしいのか顔を下に向けながら感謝の言葉を送る

「それはお父さんに言いなさい?私も応援するから」

「うん!」


箸で揚げたての唐揚げを持ち口の中へがっつりと運ぶ


うっひょ~!熱い!やっぱり唐揚げは揚げたてだよな!と言わんばかりの顔をして歯を上下に動かす


「満足そうね、良かったわ。」

「うん。さっきも言ったけど大好きだからさ、毎日食べれるよ」

あっという間に唐揚げ、ご飯、みそ汁、サラダを平らげ再び手を合わせる


母が食器を片付け、石神がテレビを見ている


見ているテレビは料理番組で二人のプロの料理人が対立し、ゲストが食べたい料理をそれぞれが作って勝敗をゲストに決めてもらうという勝負型の料理番組だ


食べたい料理は中華料理です!とゲストが希望しお互いが料理を始める


これから料理を作るといったところで台所から母親の声が水の流れる音と共に聞こえる


「今朝のニュースでもやっていたけど最近奇妙なニュースばっかりやってるわね。普通じゃない事件が多いし」


事件自体が普通じゃないし、普通な事件てのは一体…


と思いながら昨日、今日の出来事を思い起こした石神は黙って母の話を聞く


「あんたは巻き込まれちゃダメよ?」

「うん。そうならないように気を付けるよ」


もう遅いよう…


そう頭の中で呟きながら苦笑いをしてテレビを見つめる


すると突然ズボンのポケットの中のスマホに着信が入った


スマホのロックを解除するとそれは親友である前田からのメールであった


メールを開くと「今から会えるか?会えたら俺の家へ来てくれ」という内容であった


うーん、今からか。多分だけど今日の事を聞かれるんだろうな。まあ周りに聞かれなければ問題ないか


了解、今から向かう。と返信し腰を上げる


「今から出かけてきます」

「そうなの?気を付けてね」

「うん。すぐ近所だから」


時計を見ると19時10分を過ぎていた


「行ってきま~す」

母親へ届くように長めの発音をする


さて行くか。靴ひもを結びなおして目的地へ足を運ぶ


とはいっても二人の家の距離はとても近く歩いて30秒ほどの距離だ


着いてすぐさまインターホンを鳴らし前田が出てくる


「よう!よく来てくれたな」

「ああ」

「上がってくれ」

「うん。お邪魔するよ」


靴を脱ぎ前田家へと上がる


「ん?おお石神君か」

「あっ!叔父さんお邪魔します」


声をかけてくれた人は前田の父親の弟である


「よく来てくれたゆっくりしていってくれ」

「はい。ありがとうございます!でもその前に仏壇へ行っても?」

「ああ、毎回ご丁寧にありがとう」


石神の行った仏壇には前田の両親の写真が飾られていた


仏壇の前に膝をつき目をつむって手を合わせる石神


「あの事故から一体何年だっけか?」

「10年だ。嫌な事故だった」


仏壇に向きながら質問して答えが返ってくる


前田の両親はガス爆発で亡くなってしまった。叔父が両親の代わりに前田の面倒を見ている


10年前から石神と前田の家は徒歩で行ける程の距離感であり、その間に叔父の家がある

だが事故が起きてからは前田の家は取り壊され叔父の家に引き取られ前田はそこで生活をしている


「ちゃんと気を付けていればこんなことにはならなかったのにな」


前田の手が握りこぶしで震え、爪が肌に食い込む


「まあ今更くよくよしても仕方ない。俺はああならないように気を付けて両親の分まで元気に明るく生きるよ」

「そうだ、今までそうしてきたのだからこれからもな」


石神が手を合わせ終わると立ち上がり後ろを向く


「終わった?じゃあ上へ行くぞ」

「そうだな。では叔父さん二階にお邪魔させていただきます」

「うむ、ゆっくりして言ってくれ。光輝も喜ぶよ」


石神は二階へ続く階段の前で叔父へお辞儀をしてから前田と共に階段を上る


「良いね、いつ来ても変わっていない」


そう言いながら石神は部屋に入り座布団を敷いて座る


「お前この前来たばっかりだろ。座布団それでいいか?」


コクッとうなずく石神を見てから前田も自分の机の椅子に座る


「さて、色々聞きたい事があるから順を追って説明してくれ」

椅子の背もたれを逆にしその上で腕を乗せ聞く態勢に入る


「そうだな。まず俺は自然の力を使えるらしい、今朝その力を得た。そしてその力を使って夕べ俺たちを襲ってきた奴らと戦って平和を守らなければならない。らしい…」

「まああんなことが起きたんだから今更信じないことは無いけど、やっぱりびっくりするよな」

椅子を前後に揺らし頭の中を回転させる前田


「お前はどういう力を得たんだ?」

「火の力だけど今は見せられない」

「なんで?」

「力をコントロールできないからさ、多分力を使ったらこの家燃えちゃうぜ?」

冗談な笑いの石神に対しあちらも笑っておおっ怖っと言いながら流す


「で何でその力を使えたんだ?」

「なんか自分の中の記憶に残ったものが核なんだと。俺の場合小さい頃から料理するのが好きだったから料理にはかかせない火が力に使えたらしい」

「なるほど」

「で、今日はその火の力の使い方を学んで練習してきた」


「という事は敵もお前と同じように何かの記憶の核が刻まれてあんな力を引き出せるってことか?」

「ご名答。そういうことだよ」

前田を指さして褒める

「はあ~そういうことか。てことは昨日の水の敵はそれに関する人間だったってことか?水泳関係とか」

「あ~そのことなんだけど聞いた話ではあいつらは自然災害の被災者らしい。それが記憶に刻まれているのだと」


「!? そういうことか…そうだったのか…だからが…」

ガバッと椅子から立ち上がり顔を上に上げ数秒放心する

「ん?どうしたなんかおかしいぞお前」

「いや、何でもない」

「そうか」


顔をこちらに向けたはいいが気のせいか光輝の目が泳いでいるように感じる


おかしいな


「なんでもないなら座れよ」

「そうだなすまん」


ん?座った拍子に気がついたが光輝の服を良く見ると首から何か下げているな何だあれ


「なあ」

「ん?何だ?」

「お前の首に下げているそれってなんだ?」

「ああこれはなんでもないのペンダントだ」

「へえ」

服の中に隠れているペンダントを外側に出し見えるように見せる


首に下げているペンダントは楕円形で綺麗に整った形で透き通っており、その先には前田の首筋が見える


淵は銀色でペンダント同様に楕円形であり、そこから鎖が繋がれ前田の首を巻いている


ペンダントから手を放し前田がパンっと手を叩いてから


「さて色々お前から話を聞けたことだし、今日はもう疲れているだろう?帰ってゆっくり休め」


焦っていたのは確かだが、今はお疲れ様の言葉をかけて、かけられ落ち着く


階段を下りて玄関の外へ出てから


「明日は土曜日だ。午後まで寝ているのもアリだ、また来週な!料理でも作って趣味を堪能しろ!」

「おう!」


笑顔で今日最後の言葉をかけてくれた彼の顔はどこか悲しい顔をしているようだった


そう、子供のころ喧嘩して泣きそうになるようなあの顔に似ていた

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