第10話 創造

練習は三時間ほど続き石神は徹底的に絞られた

顔と体は汗だく、手は両手で震えながら竹刀を持っており力の限界を示している

足の力は抜けていて今にも倒れそうだ

「ハァ、ハァ… 後、13本。でもまだ集中しないと」

持っている竹刀は燃えており、練習用の竹刀の本数が四割ほどを越えた辺りで石神の勢いは落ちていた


「ここまでやれれば十分だ石神」

石神の後ろにある残り数十本の竹刀を見た後、隣にある燃えた竹刀を見る

「よく一本一本丁寧に練習できたな」

「言われた通りに、やらないと、自分の成長に、なりませんから」

息継ぎをしながら答えて竹刀を下ろし腰も下ろす

「良い心がけだ。よし休憩しよう飲み物を取ってくるからそこで座って待っていてくれ」

そう言って鴨山はルームの外に出る


室内の端の壁に背中を預け足を伸ばし石神は休憩している

「ふう、これから俺はここでやっていけるのかな」

不安になりながら天井を見上げている


「おおっ、ここにいたか」

声の方向に目を向けると声の主は鴨山が出ていった扉にいる野田であった

「あっ、野田さん」

報告を終えた野田はスタスタと歩いてくる

「う、立てない」

腕を頼りに立とうとするが力が思うように入らない

「そのままでいい。疲れているだろう」

腕を前に出して制止させる

「ありがとうございます」

石神の右隣に野田も片膝を立てて座る

「どうだ進捗は?」

「はい。色々と自分の力の基礎について教えていただき今は力の使い方の練習中です」

「そうか。でその練習は竹刀を用いての練習か」

竹刀の方へ顔を向ける

「はい。一本一本丁寧に練習しました」

「大したものだ。よく初めてであんな数をこなせたな。最高記録なのではないか」

「そういっていただけると嬉しいです」


「ところでお前の戦う理由はもう見つかったのか?」

「それは鴨山さんにも聞かれたのですが、明確には決まっていません」

「そうか、まあまだまだこれからなのだからゆっくり探していけ」

そういうと石神の右肩をポンと叩いて立つ

「ですがっ」

野田は無言で振り向き石神の前に立つ

「確かに明確な理由が無いと言いましたが、今は皆さんに救ってもらったこの命を使って皆さんの力になればいいなと思っています」

右手を自分の心に当てる

「そして自分たちの敵である彼らを救いたいとも思っています」

「ほう。自分が敵でありながら敵を救うと、面白いことを考えるな」

言葉に反して少し睨みを効かせてくる

それなりの自信を持って戦う理由を話した石神だが睨みに引いてしまう

「うっ、えっと」

目を泳がせながらこれしか言えない

「戦う理由を見つけたのはいいが」

そういいながら石神の前へしゃがみ込む

「それが原因で呑まれるなよ?それはお前次第だしっかりとな」

今度はずっしりと重い手が石神の右肩に乗る

「はい!」

活が入ったのかその声に勢いが乗る

「お前の成長は早い。ありがたいことにな。進捗も聞けたし私はまだ残っている自分の仕事を片付ける」

「はい!では」

「ああ」

石神は見よう見まねの敬礼、野田はしっかりとした敬礼をする



入れ替えで鴨山が入ってくる

「ちょうど廊下で野田さんとすれ違ったよ。何か聞かれたか?」

「そうですね」

石神は野田との一連のやり取りを目の前に立っている鴨山に話した

「そうか。まあ何はともあれ理由が決まったことはいいことだ。さて飲み物を飲んだら練習に戻ろう」

飲み物を石神へ差し出す

「ありがとうございます。ですがまだ疲れてしまって動くのが辛くて。 あとそれとは関係ないんですが…」

「ん?何だ?」


「さっき思ったのですが竹刀を練習で使った後は燃えてしまって何もできないじゃないですか、それが勿体ないと感じてしまって」

「確かに勿体ないところはある」

二人が竹刀の方を見る

「本来は剣道で使うものなのに一瞬で終わっちゃって、どうにかならないかなと思って」

腕を組んで考える

「そうだなー、自分で剣とか作れれば勿体なくないし練習に持ってこいでいいんだけどな」

まあ無理な話だけどな。と首を横に振りながらため息交じりで話す

「ん?あー!そうか!そうですよ!」

体に力が入らない割には声がでかく響く

「なんだ?まさか自分で作ればいいと思っているのならやめておけ。皆できなかったんだ」

「でも何だかこっちの方が簡単そうな気がします。火を武器に纏わせて使うんならその火自体を使う事だって可能なはずです」

止めようとする鴨山を押し切る

「とりあえず創造してみるだけでも」

体力が回復したのかお互いの目線が同じくらいの位置に付く


「ならやってみろ、もしかしたらお前にだけは新しい事ができるかもしれない」

何が起こるかわからないため石神と鴨山との間に10m程距離ができる

「では行きます」

肘を伸ばし両手を縦に揃えちょうど剣のつかが手の中に納まるように空洞を作って構える


剣を創造、剣を創造と言いながら目を閉じて剣のイメージをする

「これか!?」

目を開けると同時に石神の両手の内には縦に長い炎の棒が現れる

その炎は木の枝で練習したときと同様メラメラと燃えている。そう、今回は燃える物質が無いのに燃えているのだ。非現実的であるが創造力を使って炎の棒を想像している


長さは竹刀と同じ110cm程を創造できたが、1つ問題があるそれは炎の太さが手の中に収めるにはとても細すぎるということだ

炎の棒はまるでネジ穴とのサイズが合わないネジのようにシュンとすり抜けていき火の粉となって消えていく


「何だ今のは、想像だけでやったというのか」

鴨山が驚きながら近づいてくる

「どう、ですか?」

簡単そうと言ったのは伊達ではなく肩で息をしながら鴨山の反応を伺った

「フッ、こんなことをされてしまっては俺の立場は無いな。期待の新星だよお前は」

自分にできないことを可能にし、追い越されたことを根に持つよりもその力を頼るように石神に語りかける

「力になれるよう頑張ります」

ニッと明るい顔をしながら返事をする


トレーニングルーム内の時計が4時半を過ぎた時点で二人は竹刀を片付けている

「今日はこの辺で終わりにしよう。初日で期待以上の成果を出してくれたしな」

「ありがとうございます。銃の創造もしてみたかったですがそれは今度にさせてもらいます」


「それと疑問に思った事があるのですが」

使用済みと未使用の竹刀をそれぞれでまとめて倉庫へ向かう二人

「なんだ?」

「なんで自分が炎を創造したときあんなに細いのが出来上がったんですかね?」

石神は使用済みの竹刀が入った段ボールを持ち、鴨山は未使用の竹刀の台車を押す

「そりゃ簡単だよ。無意識にブレーキをかけてしまったからさ」

「ブレーキですか…」

「石神はさっき木の枝を燃やした時熱くて火傷しただろう?今回の練習でもまた手を火傷したくないという考えが無意識に頭の中で流れたのだろう。それがブレーキとなり細い棒となってしまったのだろう」

「なるほど。そういうことですか…」

少しシュンと落ち込みながら話を聞く石神

「まあなんだ、練習あるのみだ。そうすれば火傷せずに済むかもしれないからな」

「はい」

二人は竹刀を片付け、エアガンやBB弾などの他の道具も片付ける


「さて、片付けも終わったことだし出口まで案内しよう」

「はい。お願いします」

「と言っても入口の反対の扉から外に出られるからすぐ出口にいけるんだけどな」


二人が外に出ての石神の第一声が

「自分が運ばれたのってここの基地だったんですね、ここなら三駅分で家に着きますよ」

「そうだな。野田さんから聞いたが近くて良かったよ」


二人が基地の門に着く

「ではここでお別れだ」

「はい。ありがとうございます」

門の真ん中には警備用の監視台がありその中に門番が二人入っている


「できる話なら毎日来て練習してほしいがそれは無理そうだな。来れるときに来てくれ。それと」

鴨山はポケットから自分のスマホを取り出し差し向ける

「連絡先の交換を」

「はい」

すぐさま石神もスマホを取り出す

ピロンッとお互いの連絡先が届いた音が鳴った


「今日はありがとう。色々楽しかったよ」

「こちらこそ色々学べて自分も嬉しかったです」

「なにかあったら連絡してくれ。そしてくれぐれも波動を感じても決して近づくな、まだ戦える状態ではないのだから」

「はい。すぐさま連絡するようにします。では失礼します」



帰路に就いてから数十分、石神は自分の家に帰るため駅に向かって歩いていた

するといきなり左の角から女性が飛び出し石神とぶつかってしまう

「うわっ」

「Oh」

お互い片手で頭を押さえ尻餅をついている

「イテテ、あっすみませんぶつかってしまって」

「ゴメンナサイ」

謝罪が返ってきたのは日本人ではなく外国人のようだ

話し方もカタコトで一応意味は伝わる


「アッ、スミマセンカバンタオシテシマイマシタ」

「えっ?」

横に目をやると鞄が倒れ中身のノートや筆記用具が出てしまっている

一緒に中身を片付けお互いが立ち上がる


ぶつかってきた女性は銀髪ストレートの髪で水色の瞳をしており左側の頭には氷の髪飾りをしている

そして見たことのない制服を着ており白いシャツに赤いネクタイで黒い上着に黒いスカートを履いている

「ゴメンナサイ。デハ」

「あっ」

容姿を見ているうちに女性は走って去った

「綺麗な子だったな」

というと石神はそのまま家の帰路に戻る

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