第6話 適正検査

基地内の廊下で二人が歩きながら話す。


「さて、君にはこれから検査を受けてもらうわけだが改めて準備は大丈夫かな?」

石神の方に顔を向けながら話す。


「はい!大丈夫です!電話も終わりましたし何も用はないと思います」

こちらも野田の顔の方を向き笑顔で答える。

命の恩人という事もあるのか石神は野田をとても慕っている感じがする。


「とは言っても」

石神は顔を正面に戻し、顔を上に少し上げて首を右にかしげながら

「検査ってどんなことをするんですか? ハッ!もしかして痛いこととかするんですか?採血や注射とか… 自分嫌いなんですよ~」

恐る恐る野田の方へ顔を向ける。


表情を確認してから今度の焦りようは問題ないと判断したのか、野田は焦らず朗らかに

「ハッハッハッハ」

と声を少し勢いを乗せて笑いながら

「そんなことはしないさ。君は単に立っているだけでいい。何なら私と会話をしながらでも検査を受けていい。それくらい簡単な検査なんだよ。」

と優しい感じでなだめるように答える。


「そうですか。けどなんかイメージできないなぁ」

少しもやもやしたのか疑問の表情で独り言を呟く。


「百聞は一見に如かず。だ。一度見てみれば君も分かるよ。」

「うーん。確かにそうですね。」

吹っ切れたように石神の顔が変わる。


「他に何か質問したいことはあるかな?」

野田は親切心からか、目的地に着くまでにできるだけ自分が答えられる範囲で石神の疑問を解こうとしている。


「では質問です。今歩いてる所って自衛隊基地の施設ですよね?」

「そうだが?」

石神は一番疑問に思っていることを質問した。

「さっきからたびたびすれ違っているのですがなんで基地内に私服?を着ている人たちがいて、野田さんのような自衛隊員が着るべき服を着ていない人たちがいるんですか?」

「しかも年齢は自分の様な歳の人もいれば大人の人もいる。」


「その答えは簡単だ、彼らは正規の自衛隊員じゃないからだ。」

石神に対して右手を広げながら疑問に答えていく。


「つまり非正規の人たちということですか?お給金も貰えるわけでなく、ボランティアみたいなフリーな感じと?」

自分の答えが合っているか再度質問する。


「いや、そんなことはないよ。名目上は非正規であって給料はちゃんと貰えるし、扱いだって普通の自衛隊員と同じ扱いをするよ。任務を与えたり、訓練させたりして体力もつけてもらう。その上座学とかもね。」


「はぁ。そうですか。」

石神はイマイチ理解できていないのか、「非正規」という言葉の意味に対して疑問の表情を浮かべてしまった。


「ただ何が違うかと言うとその人たちは昨日君を守った人たち、そして攻撃してきた二人組のような特殊能力を持つ者たちだっていうことだ。」


「!? そういうことですか!!」

話の中で一番大事であろうキモの部分に触れることができ、石神の頭の中は一気に整理され「非正規」の意味を理解できた。

「それを最初に言ってくださいよ~ 考え込んじゃいましたよ。」

スッキリしたのか陽気な話し方で言う。


「いやぁすまんすまん。大事なところが抜けていたな。」

笑いながら右手を後頭部に当て自分のミスを認める。


「ん?」

改めて考え込んでから一瞬また疑問が生まれる。

「でもそれだけの理由で非正規になるんですか?別にそれなら戦えますし正規扱いでもいいんじゃ?」


「良いところに気が付いたね。昨日君を助けた彼らはみんな自衛隊員じゃないんだよ。つまり元は民間人なんだ。それが色々あって人を守る立場になってしまった、という事さ。」

「なるほど。そういうことですか。」

「ちなみにだが敵の内情は我々はまだよくわからない。昨日の二人が正規なのか非正規なのかも」


「もしも正規だったとしてもそんな正規は非正規と同じですよ。」

襲われたことを思い出しながら重く呟く。


「確かにそうなのかもしれんな。」

腕を組んでうなずく野田。


そうこうしている内に二人は目的地に着いた。


「さて、着いたぞ。中に入ろう。」

「はい。」

ドアノブを回しドアを押し込んで中に入る。


入った中は高校の保健室のような構造をしており、白のカーテン付きのベッドが三つほど連続で並べられたり横に少し長いソファーが部屋の中心に対称に置かれて真ん中にテーブル、部屋の端にはアルコールや薬品の治療用具などと、それ専用のテーブルが置かれている。


「ん?あら、来たわね」

ドアノブを開けた先にいたのは白衣を着た20代後半ぐらいの女性であった。

女性は薬品近くのテーブルと一緒の椅子に座っており、そのテーブルと椅子は部屋に入った石神の左手側に置いてある。


「君が野田さんの言っていた噂の子ね。」

「は、はい。初めまして。」

女性は座りながら、石神は背を伸ばした棒立ちの状態で話す。

「私は【神田恵】《かんだめぐみ》よ。よろしくね。」

「石神竜樹です。よろしくお願いします。」


神田は長い黒髪ストレートにたれ目でおっとりとした感じで、背は160と低いが包容力のありそうな人で高校の保険室にいたら生徒だけでなく先生達からも人気になるだろう。白衣がまた一段と似合っている。


「ふふ、緊張してるの?落ち着きなさい」

そういうと神田は右手を広げてテーブル近くにあったもう一つの椅子へ手を差し向け座るように促した。

「はい。失礼します。 あれ?野田さんは座らないんですか?」

「私はこのままの姿勢で十分だ。」

というと野田はそのまま「休め」の姿勢で石神の後ろに立っている。


「さて、さっそくだけど君の【特殊能力】に関しての適正検査をさせてもわうわ。」

そう言いながら神田はノートに何かを記している。

椅子に座っている石神が恐る恐る手を上げ質問しようとする。

「あ、あの~」

「何かしら?」

ノートに目線を向けて書きながら反応する。

「適正検査って何するんですか?」

「大丈夫よ。怖いことなんてないから。野田さんからも聞いてるでしょ?」


「うぅぅぅぅぅ」

さっき言われてもまだ不安なのか野田の方へ石神は体をフルで振り向きながらかすめた声を出す。

「さっきも言っただろう大丈夫だ。安心しろ。」


ノートを書き終わったのか、神田は電話を取り

「私です。例の子が来ました。をこちらへ」

と話して電話を切る。


「さて、検査が始まるまであとちょっとだから待ってて。」

「はい。」


ものの1~2分してからか、すぐに男性が部屋に入ってきた。


「失礼します。お待たせしました。」

といいながら男は敬礼をする。


「ご苦労。この子だ新しい人員となるかもしれん子は」

石神の肩を軽く叩きながら立つように目で合図する。

「この子ですか、よろしく。」

「よ、よろしくお願いします。石神竜樹です。」

男は右手で握手を求め、石神は前かがみになりながら両手で握手する。

「紹介しよう。こいつは【鴨山四郎】《かもやましろう》だ。」

「鴨山さん。改めてこれからよろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。」


鴨山は自衛隊員の制服とは異なり私服を着用し、髪はスポーツ刈りで髪型のせいか目は石神同様綺麗な赤目で普通なはずだが睨まれているようで少し怖い感じがする。


二人の握手が終わり

「ところで覚えているかな?昨日の夜君を救った数人の内一人は俺なんだが。」

「え?覚えてません。その、疲れてて…」

「彼はかなり疲れていたからな、仕方ないさ。」

「そうですね。すまない石神君」

「い、いえ。こちらこそすみません。」

右手を自分の顔の前で否定する形で思いっきり横に振る。


「では早速だが、適性検査を始めさせてもらう。よろしいですか?野田さん」

「うむ、よろしく頼む。」


「では石神君、そこのベッドに座ってくれ」

「はい。」

二人は部屋の右端にある三つのベッドの内の真ん中のベッドへ向かった。

「では座ってくれ。」

「はい。」

石神が座りその前に鴨山が立つ。

「君の胸に手を当てるが気にしないで座っててくれ。」

「は、はぁ」

「やはり強いなこの波動、もしかしたら…」


「行くぞ!ふんっ!」

「ぐっ!」

鴨山の腕から石神の胸へ光る赤い何かが送り込まれる。


「衝撃が体内中に響くが一瞬だ。我慢してくれ」

そういうと鴨山は石神から離れる


「う、うおおおおおお!」

胸の中にある赤い光が石神を包み込みどんどん飲み込んでいく


「もしこの検査が成功すれば強力な戦力になりますよ彼は」

「そうなってくれる事を祈ろう。だが、我々はせっかく彼を助けたのに戦力として追加していいのだろうか…」

「………」

二人ともうつむく

「………」

神田も黙りながら石神を見守る


赤い光が石神を飲み込んでから数秒後

光は石神の体内に消えていき跡形もなくなった

石神は頭を下げながら座っている


「うお!?」

「どうした鴨山!」

「今まで感じたこともない感覚です。超能力者ならではの【波動】を強く感じます」


「う、うう」

気が付いたのか石神は左手で頭を抱えながら小刻みに左右に振る


「おめでとう。君はこの適性検査に受かったんだ。」

鴨山は握りこぶしをしながら石神に伝える

「そうですか。少しぼーっとしますが何が変わったんですか?」

「見た目は変わらん、だが君は確実に変わった。それを確認するまでは時間がかかるけどな。検査に受かった君にはこれから色々と勉強してもらう。だがその前に」

鴨山は野田の方へ振り向いた

野田が石神へ近寄って

「ようこそ!我が組織【THE PEACE】へ!我々は君を歓迎する!」

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