第147話 勇者バージャス8

水中スクーターで『海の洞窟』を目指す勇者バージャスと魔女ヴァユー、聖女ナリエの3人。


「水中で喋れるなんて面白いわ」

「本当ね」


ヴァユーとナリエは散歩に行くかの様に余裕の表情で水中を楽しんでいる。


太陽の光が届かなくなると、水中スクーターのライトが自動で光り、周りの景色を映し出す。


海の中は神秘の世界だ。色とりどりの魚や珊瑚等、陸地では見れない綺麗な世界を浮遊している感覚が、気分を向上させていく。


「お、入口があったぞ」


勇者バージャスが『海の洞窟』の入口を見つけて向かい、ヴァユーとナリエも後に続く。


その後を冒険者達がついてきていた。


「勇者達は随分ゆっくりだなぁ」

「水中を楽しんでいる様子だ」

「流石勇者だ」

「余裕があるじゃねえか」

「いや、貴族用水中スクーターだ。そこまでスピードは出ねえだろう」

「あぁ、そうか。」

「あんなので、モンスターと戦えるのかね」

「お手並み拝見だな」


冒険者達の囁きが耳に届かず、バージャスは『海の洞窟』に侵入した。


「え? ダンジョンの中も水中が続くのかよ」

「呼吸できる陸地に変わると思ってたわ」

「私の炎系の魔法は使えないって事ね」


「ちっ、しょうがねえな、先に進むぞ」


暫く進むと。


「前方からモンスターが来るわ」


ヴァユーが探知し注意を促す。


「よし、任せとけ!」


バージャスは水中スクーターのハンドルから右手を離し、腰に差した聖剣を抜こうとするが……。


「うわっち」


左手だけでは、水中スクーターの制御が上手く出来ず、バランスを崩し変な方向に水中スクーターが暴走する。


「あわわわわわ」


バージャスは水中スクーターに引っ張られて、下の方に暴走していく。


「ありゃ、勇者って馬鹿?」

「ぎゃははははは」

「ぷっ、素人丸出しじゃねえか」

「今時、新人冒険者だって、片手で水中スクーターを操るぜ」


冒険者達の笑い声が響く。


前方から現れたのは、3体のマーマンだ。


マーマンは半魚人だ。魚を人型にしたモンスターで、2本の手に2本の足で、鱗に覆われて魚の顔だ。泳ぐのは速く。先端が3つに別れた槍を持っていた。


ヴァユーは水中スクーターを止めて、ハンドルから右手を離し、杖を展開して迎え撃つ。


「闇よ! 槍となって敵を打ち抜け」


闇槍がマーマンに発射された。


しかし、水中で自由自在に動くマーマン達はするりと躱し、ヴァユーに迫る。


前衛のバージャスが何処かに行ってしまった為、後衛のヴァユーとナリエは恐怖に震える。


右へ左へ上へ下へ、マーマン達は縦横無尽に動きながら二人に突き進む。


ヴァユーの闇槍の魔法が何度も発射されるが、狙いが定まらず恐怖で震え、擦りもしない。


マーマンが三叉槍をヴァユーに突き刺す。ヴァユーは水中にいる為、普通に躱す事が出来ないと考え、左手で掴んでいる水中スクーターのハンドルに大量の魔力を流した。


急発進だ。


水中スクーターは上に急速に動き、マーマンの三叉槍を躱す事が出来たが、貴族用の水中スクーターの動力部は急激に大量の魔力に耐えられず、オーバーヒートを起こして止まる。


プスン、プスン……。


そして、キツくマスクを着けると、目の周りに痕が残るのを嫌がったヴァユーのマスクが外れる。


「ひゃああああああ」


水中でマスクが外れてパニックになるヴァユー。

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