第148話 勇者バージャス9

「ひゃぁぁぁ、前が見えないぃ。マスク、マスク。マ、マスクは……、どこぉ……。」


外れたマスクは首にかかっているが、パニクってる魔女ヴァユーには分かっていない様だ。


水中スクーターのハンドルを離し、目を閉じて両手を前に出してマスクを探すヴァユー。


額に移動した眼鏡を「メガネ、メガネ……」と探すギャグと同じだが、ヴァユーは水中でパニクってる為、お尻を上にあげて漂いながら不恰好で探す。普段鼻持ちならない言動からは想像も出来ない姿は冒険者達の失笑を誘う。


「ぎゃはははははははははははは!」


「マスク、マスクだってよぉ」

ヴァユーの滑稽な動作を真似て爆笑する冒険者。


「ひ、ひぃー」

「首についてるがなぁ」

涙を流して、引き笑いの冒険者。


「水中で目も開けられねえのかい!」

「あっはっはっは」


残るは聖女ナリエ。ヴァユーを助けたいが、3体のマーマンに囲まれて動けない。


ナリエは回復担当なので、攻撃手段があまり無い。


「ひゃあああああ! 助けてえええええ」


ダンジョンの入口に逃げ出したナリエ。


しかし、貴族用の水中スクーターの速度は遅く、あっという間にマーマンに追い付かれる。


「いやあああああああ!」


マーマンの三叉槍がナリエに突き刺さる、しかしナリエも勇者パーティーの一人。水中スクーターハンドルを動かし、方向を変えて、致命傷は避ける様に避けていた。


だがしかし……。


問題はウェットスーツだ。傷は回復魔法で必死に回復するも、なんせ貴族用の紙装備。

段々裂けて千切れて肌が露になっていく。


「え!」

「あ、あれってストリップ?!」

「いい胸してるじゃん」

「くぅー、セクシャルだねぇ」

冒険者達の視線も釘付けだ。


とうとうウェットスーツは壊されて、水着になったナリエ。


「ナリエえええええええ」


そこに登場した勇者バージャス。


聖剣を持った片手運転は諦め、水中スクーターのハンドルを両手でしっかり掴んだバージャスが、ナリエの元に進む。


しかし勇者と言っても聖剣を操る剣士であるバージャスは、両手でハンドルを握ると攻撃手段がなく、冒険者用の水中スクーターであれば、飛び出す銛等攻撃手段もあったのだが、貴族用の水中スクーターには攻撃の機能はない。


従って、水中スクーターによる体当たりしか手が無いのであるが、貴族用の水中スクーターは物理耐性に難があるし速度も遅い。


マーマンは余裕で躱し、三叉槍でバージャスを突き刺す。


「げははは、死ね死ね」


「止めろぉ! くそぉおおおおお」


ズブズブ刺されたバージャスを必死に回復するんナリエ。


「あぁ、バージャス頑張って」


そのうち、マーマンの三叉槍がバージャスの呼吸器の魔道具をかすると、「う、空気が重いぃ」空気を生み出す仕組みが故障した。


「ああああああ!! 息がぁ……、息が出来ない……」


「バージャスぅううううううう!」

泣き叫ぶナリエ。


「くぅ……」


ぶくぶくぶくぶく……


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