第146話 勇者バージャス7

「着きました。ここから潜れば『海の洞窟』に行けます」


海の上で周りに陸地は見えないところに船が止まり、船長が勇者バージャスに声を掛けた。


「あ"ぁ! こんなところから行くのかよぉ!」


不機嫌そうに船長に文句を言うバージャス。


(またかぁ)


「はい。ここから潜ります」


いい加減船長はバージャスと会話するのも嫌になっていたので、錨を降ろしながら、能面の様な顔で感情を殺して返事をした。


やれ暑いとか、喉が渇いたとか、魔女ヴァユーが船酔いになったから何とかしろとか文句ばっかり言うし、あげくの果てに止めるのを聞かず、船の上で酒まで飲んでいたので、それも当然の事だろう。


そもそも、バージャスが船をチャーターする為に声を掛けられた時に。


「俺は勇者バージャスだ。『海の洞窟』まで乗せていけ」


と言われて驚いた。


(貴族用のウエットスーツで『海の洞窟』に行くのかよ? 此奴ら正気か? そんな紙装甲のスーツなんて戦闘になったら直ぐ壊されるぞ)


と思って、一応聞いてみた。


「そのウェットスーツで『海の洞窟』に行くのですか?」


「はぁ! 当然だろ! 勇者パーティーは装備のでデザインにも拘るんだ。汚くてダサい服なんて着れるかぁ!」


(此奴ら阿呆だ……)


と思いながらも、取り敢えず報酬を貰えればいいかと、それ以上は聞かなかった。


バージャスは周りを見ると、幾つかの船が見える。錨を降ろして『海の洞窟』に潜る為の準備をしている冒険者達が見える。


「ふむ。他にも冒険者達がいるから、ここから行くのに間違い無いか」


最近、『海の洞窟』は難易度があがり、潜る冒険者は少なかったのだが、勇者バージャスが攻略すると聞いて、野次馬の冒険者達が来ていたのだ。


バージャスは船酔いで具合が悪そうなヴァユーをチラリと見た。


「ヴァユー、行けそうか?」


「うぇっ、うぅ、何とか……」


「このまま、船の上で波に揺られても回復しないでしょうし、行きましょう」


聖女ナリエがヴァユーの背中をさすりながら、ヴァユーの準備を手伝う。


ウェットスーツは肌を締め付けるので、上半身だけ外し下半身だけ着ていたヴァユーが、ウェットスーツを上半身にも着けるが、具合が悪いのでナリエに手伝って貰ってやっと着る事が出来た。


割とピッタリと身体にフィットする素材なので、中々着るのが面倒なのだ。


水に濡れると着やすいと聞いていたので、バージャスは海に飛び込み、海野に浸かりながらウェットスーツの上を着る。


「行くぞぉ!」


バージャス達はアイテムバッグから、マスクと呼吸器の魔道具を取り出し装備すると、水中スクーターも展開した。


「え! あの水中スクーターは……」

(貴族用じゃねぇの?)


「嘘?マジかぁ」

(アレで潜って戦えるのか?)


「すげぇ、アレで潜るのか」

(ある意味で本当に勇者だな)


冒険者達の驚愕の声が、賛美と聞こえたバージャスは冒険者達に手を振って、意気揚々と潜り始めた。

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