第145話 勇者バージャス6

勇者バージャスは水中で動くための器材を買うため、魔道具屋ロスキュー・バプに来た。


「いらっしゃい」


店長のムエミネは明るく声を掛けた。


「俺は勇者バージャスだ! この店にある最高の器材を出せ」


「は? はい……、少々お待ちください」


ムエミネは、勇者バージャスの高圧的な口調に戸惑いながらも、商売なので奥に入り、最高級の器材一式を用意した。


「これが当店の最高の器材一式です」


「おい、一式しか無いじゃないか? 俺達は3人いるんだ。3人分を用意しろ」


「承知しました」


(初めから3人分って言えよ!)と心の中で思いながら、魔女ヴァユーと聖女ナリエの体格を確認し、女性のSサイズのウェットスーツ、マスク、グローブ、ブーツ、フィンを用意する。


勇者と聞いて、戦う事を想定した冒険者用のモノだ。シンプルだが防御力が高く、流水抵抗を軽減し軽量化を図りハイパフォーマンスを実現した地味・・なデザインの一品だ。


「ナニコレ? 可愛くなーい」

「ダサーい」


ヴァユーとナリエは不満の声をあげる。


「しかし、戦闘面を考えるとこの装備が当店では最強で──」


「あっちにもっとお洒落なモノがあるじゃない?」


ヴァユーはムエミネの言葉を無視して、貴族用のウエットスーツの展示コーナーを指差す。


「あちらは貴族用でして──」


「あら、私達に値段は関係ないわ。少々戦闘にむかなくても、元々実力があるから大丈夫よ。可愛い方が良いに決まってるわ。ねぇ」


ヴァユーはバージャスに声を掛けると、貴族用の器材を物色し始めた。


ナリエもヴァユーと一緒にウエットスーツを広げては、何やらヴァユーと話をしている。


「金に糸目はつけるな! 俺達の装備費用は帝国が持つのだ。勇者は人々の希望だ、豪華で華やかな装備が相応しい」


バージャスは自慢気にムエミネに言い放つ。


「は、はぁ。そうですか……」


(はぁ、此奴ら遊びに行くのか?)


ダンジョン攻略に行く事を知らないムエミネは、それ以上何も言わず勇者達の行動を見守る。


『海の洞窟』に行く事を聞いてれば、ムエミネももう少し、強く説明したかも知れないが、そんな事も知らず、勇者の高圧的な言い方にちょっとイラッとしているので、詳しく聞くこともしないで、ヴァユーとナリエを見ていた。


結局、勇者達は豪華で装飾過多の貴族用の器材一式を購入した。


ウエットスーツやマスク等の他に、水中呼吸器や水中スクーターも貴族用を選んだ勇者達。


高額な支払いを全て帝国に回す用指示し、アイテムバッグに器材を収納し意気揚々と引きあげる。


(こんな奴らが帝国の勇者になるなんて、世も末だなぁ。まあ、最高級品の器材が売れたからまあいいか)


勇者達が出て行った後、塩を撒くムエミネだった。

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